そんな最中に、財務局に報告書が提出される。勝久氏が三菱東京UFJモルガン・スタンレー証券と契約、保有している大塚家具株350万株のうち95万株について株式売買委託契約を結んだことが明らかになったのだ。自らの権力基盤である株式を手放したのである。

 さらに勝久氏は11月10日にも同様の契約を結び、保有株から追加で68万6500株を売却することとした。合計で163万6500株を売却するとしたのである。実際に売却は進んだ。大塚家具は15年12月25日に筆頭株主が交代したと発表した。勝久氏の保有株は同日現在で186万3500株となり、議決権のある株式総数の10.00%になり、それまで2位株主だったききょう企画(大塚家の資産管理会社)の比率10.15%(議決権のない株式は除く)を下回ったとされる。

20億円以上の資金をどう使う?

 この売却によって勝久氏は20億円以上の資金を手にしたと見られる。この資金を元手に新会社の事業を展開しようとしているのは明らかだった。勝久氏が設立した匠大塚は日本橋に新しく建ったオフィスビルのワンフロアを借り、本社とショールームの設置に動き出した。

 創業者が保有株を現金化するのはなかなか難しい。もし大量の株を売却しようとすれば株価が大きく下落してしまうからだ。また、経営に関与している中で売却すれば、インサイダー取引を疑われることになりかねない。

 この大塚家具の騒動では、会社の知名度が大きく上がるという副次効果があったことはすでに触れたが、創業者である勝久氏にも大きな利益をもたらした。配当引き上げ方針を受けて株価が大きく上昇したのだ。その恩恵を最も受けたのは大株主の勝久氏だった。その勝久氏が持ち株の半分近くを「現金化」することができたのだ。

 もちろん、勝久氏の株式売却で、経営権争いが完全に終わったとは言い切れない。勝久氏が訴えているききょう企画の保有株の購入資金を巡る裁判の判決が、16年4月に控えている。判決によっては勝久氏に資金を返還するために、筆頭株主であるききょう企画は保有株式を手放さなければならなくなるリスクも残っている。

(この記事は、『「理」と「情」の狭間』の一部を再編集しました)

 大塚家具の経営権を巡る騒動は何だったのか。終始、その行方を見守り続けてきた経済ジャーナリストが顛末をまとめました。渦中で、久美子社長は何を思っていたのか――その胸中に迫ります。この騒動は、どこの家庭でも、またどこの家族経営の起業でも、普通に起こりかねない問題です。そこで、経営者にとっても学ぶべき点の多かった出来事として、コーポレートガバナンスの観点からも解説します。『「理」と「情」の狭間』は好評販売中です。