一方の久美子氏はどうだったか。直接はほとんど株式を保有していないが、兄弟姉妹で持つ資産管理会社ききょう企画は大塚家具株の10%を持ち、その資産価値は大きく膨らんだ。また、ききょう企画に毎年入る配当も大きく増えた。つまり、久美子氏はコーポレートガバナンスの「理」を説いたが、その結果、当然のことながら大株主である父親や一族の資産管理会社に大きな利益をもたらしたのである。

 つまり、一見、会社から父親を追い出した冷徹な娘のようでいて、実は大塚一族の利益に大きく貢献していたのだ。

一時は東証も疑問に

 東京証券取引所は当初、父娘の対立を「出来レースではないか」と疑っていた。株価が上がることで父も娘もメリットを享受しているように見えたからだ。筆者も久美子氏とインタビューした際に、実は会長と直接話をしているのではないかと問うた。「出来レースだったら苦労しないですけどね」と苦笑していた。もちろん、激突した株主総会に向けて日に日にヤツれていく様子を見ても、出来レースではないことは十分に理解できた。だが、結果を見る限り、久美子氏は決して親不孝者ではなかったことになる。

 久美子氏は「理」を貫いた結果、社長の地位を盤石なものとし、経営権を握った。だが、傍から見ていると、むしろ「家業」を続けていく苦労を背負い込んだようにすら思える。住宅着工件数の回復が鈍い中で、家具業界には逆風が吹き続けている。もともとビジネスモデルの限界に差し掛かっていた大塚家具を立て直すには、新たなビジネスモデルの構築が待ったなしだった。総会での勝利以降、新生大塚家具の構築に邁進しているが、そう簡単に業績がV字回復する環境にないことも事実だ。最終的に誰が笑うことになるのか、まだまだ分からないのである。

(この記事は、『「理」と「情」の狭間で』の一部を再編集しました)

 大塚家具の経営権を巡る騒動は何だったのか。終始、その行方を見守り続けてきた経済ジャーナリストが顛末をまとめました。渦中で、久美子社長は何を思っていたのか――その胸中に迫ります。この騒動は、どこの家庭でも、またどこの家族経営の起業でも、普通に起こりかねない問題です。そこで、経営者にとっても学ぶべき点の多かった出来事として、コーポレートガバナンスの観点からも解説します。『「理」と「情」の狭間で』は好評販売中です。