今回の騒動では、その「コーポレートガバナンス」が真正面から問われることになった。筆者は日本経済新聞の証券部記者として四半世紀にわたってコーポレートガバナンスの問題を取材してきたが、大塚家具の騒動ほど時代の変化を見事に映した事例はないと思う。

 久美子氏は終始一貫、大塚家具を「公器」として、上場企業にふさわしいコーポレートガバナンスのあり方を世の中に訴えた。上場企業の経営者として「理」を説き続けたのである。一方の勝久氏は、会見から父親の顔を全面的に持ち出した。大塚家具は自らが創業した「家業」である点を訴え、娘は自分を追い出そうとしていると人々の「情」に訴えたのである。

 ひと昔前ならば、創業者で社内の実権を握る勝久氏に世間の同情が集まった可能性は十分にある。長子とはいえ娘が父に反逆することに怒りが向けられたかもしれない。だが、間違いなく、時代は大きく変化していたのだ。

 久美子氏の「理」と、勝久氏の「情」の対立は、なかなか噛み合うことがなかった。久美子氏は「理」と「情」の狭間に心を揺さぶられていたはずだが、最後まで冷静さを保ち続けた。それが世の中の支持を得ることにつながったのは間違いない。

 創業者から第二世代への承継はどうすればよいのか。家業が上場によって公器となった場合に、創業一族はどう経営に関与していけばよいのか。大塚家具の騒動は、実は多くの示唆を含んでいる。固く言えば、コーポレートガバナンスを考える格好の教材なのである。

会長保有株の時価総額は1.6倍に

 では、冒頭で触れた「誰が得をしたのか」という問いに対する答えは何なのだろう。

 いまだに紛争はくすぶっているので、最終的な答えが出たわけではない。だが、現段階では、騒動の一方の当事者だった創業者の勝久氏が最も得をした人物であることは間違いがない。勝久氏が持っていた発行済み株式の18.04%、350万株の株式の時価総額は、騒動前にはざっと35億円だったが、対立の中で配当を一気に引き上げたこともあり、久美子氏が総会で信任された段階では1.6倍になっていた。時価総額が21億円も増えたのである。

 しかも保有していた株式のうち133万株余りを売却、20億円以上の現金を手にしたと見られている。創業者が経営陣にとどまっている間は、株を売却することは難しい。それが娘と対立したことによって、堂々と売却して、保有株を現金化することができたのだ。

 また、その資金を元手に新会社「匠大塚」を創設、2016年4月にショールームをオープン。新事業にも着手することができた。匠大塚は非公開企業だから、まさに「家業」にもう一度、思う存分取り組むことができるようになったわけだ。

 仮に大塚家具の株主総会で勝久氏が勝利していたとしたら、保有株を売却する大義名分はなく、新事業を始めようにも、大塚家具の事業の枠内で行わなければならない。大塚家具には社外取締役もおり、すべてが勝久氏の思い通りになったわけではない。