例えば、お客様相談室での体験。消費者からの問い合わせや苦情を電話で受けるこの部署は、私が普段いる本社から200メートルしか離れていないビルにあります。しかも執行役になったときの最初の担当部署。社長就任後に社員たちとお茶会もしていて、よく分かっているつもりでした。

 ところが、「永田さん」にふんした私に電話応対を指導してくれた部署一番のエキスパートである女性社員から、ショックな発言が次々に飛び出します。

 「社長は一度もこの現場にいらしたことがありません。ぜひ来てほしいのですが」

 お茶会の話も出ましたが、そんなことより仕事をしている姿を見てほしいという口ぶり。こんなに近くにある現場に、どうして社長は足を運ばないのかと歯がゆく思っている。彼女は言いました。

 「お客様相談室は本来、会社の中心にあるべき。改善につながる声を聞けるのですから。けれど現実には、お客様の声を伝えても改善に向かう手応えがない」

 社員には常日頃から「お客様の声によく耳を澄ませよう」と言ってきました。ところが私自身がそのための具体的な行動がとれていなかった。猛省しました。

「見ていてほしい」

 「フィールドスタッフ」の職場体験にも衝撃を受けました。

 フィールドスタッフの仕事はドラッグストアやスーパーマーケットを回って自社製品の売り場を作ること。高シェア維持のカギを握る存在と考え、社長就任後に人員を増やした肝煎りの部隊です。ところが辞めてしまう人がいたり、個々人のスキルに差が目立ったりと問題を感じていました。

 今回、「永田さん」に仕事を教えてくれたのは40代の女性社員。売り場の飾り付けなどは担当者の裁量が大きく、装飾に使うグッズも各自予算内で調達します。

 「今度の芳香剤の新製品は鏡台の宝石箱の隣に置くイメージ」。そう語りながら作業する姿にプロ意識の高さを感じました。私への説明を聞くと、センスだけでなく自分なりのセオリーを持って飾り付けを工夫している。とても優秀なスタッフだと舌を巻きました。

 しかし仕事中はずっと1人で孤独感がありました。