納会の食事についてまで、社員アンケートをとって満足度を調べるようになったのは、ここ1、2年のことです。そのほかにも、人事評価制度や月次のイベントなど、社内の様々な仕組みについて、フィードバックを受ける仕組みを整えてきました。

 その目的は、PDCAサイクルを回すこと。会社として、計画(Plan)し、実行(Do)したことが、やりっぱなしで終わらないよう、顧客はもちろん、社員の声を聞いて検証(Check)し、改善(Action)する仕組みをつくってきました。

 PDCAは、経営の基本と言われますが、ベンチャーを立ち上げた直後なら、あまり気にしないほうがいいというのが、私の持論です。

 起業家として第一歩を踏み出すのに重要なのは、新しいアイデアを次々に形にすること。ひたすら計画と実行を繰り返すだけの「PDPD」でいい。検証して改善する「CA」には、コストも時間もかかりますから、そこにこだわりすぎると、そもそも最初の事業が立ち上がりません。逆にいえば、起業家に向くのは、「PD」だけで、新規事業にある程度の精度を出せるセンスを備えた人だと思います。

 とはいえ会社が成長してくると、事情は変わります。「PDPD」を続けていると、やりっぱなしの事業や仕組みが増えてきます。どこかで整理が必要です。

 そこで「CA」の導入です。顧客や社員の声を聞き、中途半端なものは廃止、縮小し、新しいものに変えていく。

 さらに一歩踏み込んで、何か新しい制度を導入するときには必ず、いつどのように検証するかを、あらかじめ計画しておく。このようにPDCAをカレンダー化することで、「経営のリズム」をつくる。それが目下、私が取り組んでいる課題です。

衝撃の「プレモル事件」から学んだこと

 ただし、PDCAに頼りすぎるのにも弊害があります。

 納会について社員アンケートを取り始めたころ、大変、驚いた事件がありました。自由意見欄にこう書かれていたのです。

 「ビールは『プレモル』が良かった」

 「プレモル」とは、サントリーの高級ビール『ザ・プレミアム・モルツ』のことです。そのとき納会で出したのは、発泡酒ではなくビールだったにもかかわらず、それでも社員は満足してくれない。正直、戸惑いました。

 私は、できる限り社員の期待に応えたいと思っているで、社員に「『プレモル』にしてください」と言われるとつい、「はい、『プレモル』にします!」と、応じたくなります。

 が、このときはグッとこらえて、自分に問いました。
 今、社員の要望に応え、コストを上げても「プレモル」にすることが正解なのか――。
 やはり、違います。だから、納会に「プレモル」は出していません。

 今年から納会の会場を変えたときの理屈も同じです。

 もしも社員にとっては、「食事満足度」が重要だとしても、やはり半期に一度全員が集まる納会はしっかりメッセージを伝える場であり、それが最優先です。だから、「食事満足度」が下がるリスクを許容し、その代わり、食事に対する期待値を下げることで、リスクに備えたのです。

 いずれのケースでも、私の判断の根底には、こんな自問自答がありました。

 自分が起業して実現したかった理想から逆算して、それが今、やるべきことなのか。

 経営者の私が、「理想からの逆算」で出す結論は、独りよがりに陥る危険を常にはらんでいます。だから、PDCAを回して、社員の声を必ず聞く。けれど、最後に決断するときはまた、「理想からの逆算」に立ち返って考え直す。  

 当たり前のことですが、何ごともバランスが大事だと、あらためて痛感します。

 庵野監督が放った「シン・ゴジラ」の予告編には、クリエイターとしての自信と信念が垣間見えました。だからこそ、期待値の調整もギミックで終わることなく、映画は大ヒットした。

 私が、社員との間で期待値の調整を迫られる場面は、これからも多くあるでしょう。そのとき、確固たる自信と信念を持って、バランスのとれた判断を下せるか。経営者として力量が問われるところです。
 

(構成:福光恵、編集:日経トップリーダー

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