このチュートリアルには、ほかにも仕掛けがあります。

 例えば、今となっては有名すぎるほど有名な、超裏技。
 チュートリアルで、練習用に現れる最初の3匹のポケモンを無視して、アバタ―に周囲を「散策」させると……。なんと!「ピカチュウ」が現れ、捕獲できます。チュートリアルを終えた後の「本番」では、ピカチュウはめったに遭遇できない「レアキャラ」として有名です。それが実は、練習の段階でゲットできる。
 「それなら早く言ってよ!」と、ヘビーユーザーの間ではブーイングも起こっています。

 これも、クチコミで「バズる」ための設計と考えれば、腑に落ちます。決してバグ(ソフトウェアの欠陥)ではないはずです。

 さらに、「プレーヤーの離脱防止」という狙いもあるかもしれません。
 例えば、チュートリアルで、最初のポケモンにボールを投げてもなかなか当たらず、挫折しかけているプレーヤーがいたとします。そこでふらふら歩き回っていると、ふいに有名ポケモンのピカチュウが現れる。がぜん、やる気が出るはずです。
 あるいは、スマホゲームの超初心者が、チュートリアルを終えることなく、ゲームへの参加を諦めたとします。しかし、後日、初心者だけに使えるこの超裏技の噂を聞きつけ、再チャレンジを決意する。そんな展開だって、考えられます。

「ニコニコ動画」の「時報」の凄味

 そこで思い出すのが、「ニコニコ動画」の「時報サービス」です。ニコニコ動画を見ていると定期的に必ず、動画が止まって「ドワンゴが●時をお知らせします」といった時報が流れます。無料会員にはこの時報をオフする機能はなく、強制的に視聴を遮られてしまう。そのため、時報画面は「いいとこだったのにーー」だの、「時報うぜーーー」などのコメントで埋め尽くされます。

 この一体感がハンパなく、「時報サービス」は悪名高い一方で、ニコニコ動画の名物のような存在にもなりました。このサービスを設計した理由について、ドワンゴの川上量生会長は、著書『ニコニコ哲学』(日経BP社)で、こう語っています。

 「最初は『おもしろいから』で始めたんですけど、定着させようと思ったのは、ユーザーが話題にしていたからなんですよ」
 「文句でもいいんです。むしろ『ムカつく』『ウザい』『迷惑』という話のほうがいい。なぜかというと、そういう話のほうが、口コミで広まりやすいからです」
 「そういう共通の敵はひとつまでなら許せると思って(笑)」

ドワンゴの川上量生会長の著書『ニコニコ哲学』(日経BP社)。「時報」の狙いをはじめ、KADOKAWAとドワンゴの経営統合の意図からエンジニアのマネジメント、ヘイトスピーチに対する見解まで、縦横無尽に持論を語る

 上記の引用から乱暴に要約してしまえば、「バズるネタをつくる」。それが「時報サービス」の「設計思想」なのでしょう。

 私はこのごろ、何を見るにつけても、この「設計思想」について考えてしまうのです。

 あらゆる仕組みには理由がある。一見、バカバカしいようにも思えるポケモンGOの「チュートリアルの裏技」にも、ニコニコ動画の「時報サービス」にも、設計思想があり、その根底にはユーザー間のコミュニケーションを促す共通の狙いがある。

 事業家として、その要点を見逃してはならないと思うのです。