河了貂(かりょうてん)の言葉を借りれば、そのときの私の思いはこうです。

 「このプロジェクトのリーダーには“営業力”も“発想力”も必要ない。必要なのは、“別のもの”だ」
 「それは誰よりも彼が強く持ち合わせているものだ」
 そんな彼が持つものとは……「“リブセンス愛”だ!」

 再び「キングダム」に目を転じると、大抜擢された彼は、激流に流されそうになった局面で、自分の力を信じてくれた仲間たちのことを思い出し、底力を発揮。見事に部下を率いて激流を渡りきり、大逆転劇の口火を切ります。

 そしてリブセンスのサイトリニューアルの一大プロジェクトはというと……。

現実はマンガ通りにはいかない?

 結局、プロジェクトは周囲が心配した通り遅延。最後は、私も含め社員総出で徹夜してようやく期限に間に合わせるというドタバタ劇になりました。

 幸い、彼はみんなから愛されるタイプだったので、徹夜したメンバーが不満を漏らすことなどなく、むしろ連帯感が高まりました。今となってはいい思い出です。

 しかし、私の大抜擢が失敗に終わったことは、否定できません。

 ここから引き出せる教訓は何でしょうか。

 現実はマンガのようにうまくいかない――?

 そういうわけでもないと思います。

 人選が悪かったわけではない。それから約10年、曲がりなりにも会社を経営してきてそう思います。

 最大の問題は、私のアサインの仕方にありました。私と河了貂の大きな違いは、本人にはっきりと期待を伝えていたかどうかです。

 河了貂はみんなの前で、渕(えん)の「責任感」に期待していることを宣言した。だからこそ、渕は窮地に陥りながらも踏ん張ることができたのです。

 ところが当時の私は、なぜ彼を抜擢したのか、そして彼に何に期待するのかを、本人に伝えていませんでした。これでは未体験の大プロジェクトのなかでピンチに陥ったとき、奮起のしようがなかったのかもしれません。