29歳にして、創業10周年の上場企業を率いる起業家。そんなリブセンス・村上太一社長の今を伝えるこの連載。今回は、これまで自分の辞書になかった「借金」をしたことを告白。そして、同じく自分の辞書になかった「ブランディング」に開眼した理由を明かす。堅実過ぎて狭い価値観にとらわれていたと反省。経営者として腹をくくって決断すべきときに備えているという。とはいえ、何をするにも予習を欠かさないのが村上社長。このタイミングで手に取り、響いた1冊とは(前回の記事はこちらをご覧ください)。

星野リゾートの教科書

軽井沢の老舗温泉旅館を日本各地でリゾートを運営する企業に飛躍させた、星野リゾートの星野佳路代表が、さまざまな経営の局面で教科書とした30冊を紹介。目の前に立ちはだかった課題を、本の教えを助けに、どう解決したか。そんな星野リゾートの実例が満載

 最近、結構大きな借金をしました。

 個人的に不動産を買ったのです。これは事実上、初めての借金。それまで親からお金を借りたことはあっても、個人でも会社経営でも、借金をした経験はありませんでした。

 そうです。リブセンスは創業以来、今に至るまで、無借金経営です。

 けれど、永遠に無借金でいられるとは思いません。

 今年2月に日本で初のマイナス金利が導入され、低金利に拍車がかかっている今は、借金するとはどういうことなのかを、身を持って知るには絶好のタイミングです。元来、慎重派というか堅実派というか、無借金に強くこだわってきた私にとって、大きな決断でした。

 会社を興したとき、まだ19歳だった私には、「借金=いけないこと」という思い込みがありました。資本政策の有効な一手段という認識を持っていなかったのです。とはいえ、これが間違った思い込みだったかというと、そうは考えない。学生起業家が多額の借金をすることは、今の自分もあまりお勧めしませんから。

 問題は、会社を興してから後の10年です。

無借金という「ガラパゴス経営」

 「ガラパゴス経営」と言っていいかもしれません。金融機関から融資を受けるどころか、上場するまでベンチャーキャピタルなどから出資を受けたことすらありませんでした。そのため、経営者のわりに付き合う人の幅が狭かった。自分にない価値観に出合うチャンスを逃してしまっていたのです。同じ感覚を持った仲間と、小さな世界にこもって会社を育ててきたせいで、「借金=いけないこと」という思い込みにとらわれ続けていました。事業をしていれば「するべき借金」もあることにすら、気がつかなかったのです。

 お金のことばかりではありません。私の視野の狭さに起因する「ガラパゴス問題」は、会社のあちこちに潜んでいる気がします。

 そんな反省をしていたころ、手に取ったのが、今回紹介するこの本、『星野リゾートの教科書』でした。その名の通り、星野リゾート代表の星野佳路さんが、さまざまな事業の局面で「教科書」とした本を紹介しています。

 しかも、それらの本から星野さんが何を学び、それをヒントに、実際に星野リゾートが直面していた課題をどう解決していったかが具体的に書かれている。経営者はどうやって本を読むべきかという指南書として、勉強になる本です。

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