役員報酬と役員退職金をどう設定するか。これは退任を視野に入れたオーナー経営者なら大いに悩むところだ。不動産コンサルタントの沖有人氏は、毎年の役員報酬と、そこから得られる手取り収入を増やしながら、退職金を最大化するのに不動産が役立つ、と言う。連載第6回は、退任までの期間で役員が考えておかなければならないおカネの計画について語る。
法人税率が30%を切ることが決まり、所得税率の最高税率は上がり、住民税・復興税を合わせて56%ほどの税率となっています。
一般論としては、オーナー経営者は自らの役員報酬を下げて、税率が低い法人に利益を残して内部留保を増やそうとするかもしれません。しかし、所得税率を下げることができるのならば、話は変わってきます。所得税率を法人税率より下げられるならば、役員報酬を増やすことを検討するでしょう。
オーナー経営者はいつか個人に所得を移転したいというニーズを強く持っているはずです。法人にいくら内部留保を貯めていっても、いつかは法人から個人に資金を移転しなければならなくなります。ずっと法人に置いておくと、経費にしか使うことができないからです。
資金を法人から個人に移転するときに、よく使われるのが役員の退職金制度です。しかし、これは退職時にしか使えません。また、普段の役員報酬の額が少ないと、退職金だけ金額を跳ね上げることはできません。今回は、役員報酬と役員退職金の両方を上げる計画を提案します。
まず低めに設定している「役員報酬」を増やす
「役員報酬を増やしたい」と思っていても、所得税が高いために、3000万円程度に設定する人がたくさんいます。なぜかといえば、「損益分岐点は年収3000万円です」と指導する税理士が少なくないからです。
税金の申告をするのが役割だと考えている税理士は、節税の提案をしません。
弊社に相談に来るクライアントからは「いい税理士さんはいませんか?」とよく言われます。顧問税理士に不満を抱えている経営者が多いのです。私は「役員報酬を増やしたらどうですか」と提案し続けています。
中小企業の経営者など資産家がよく行っているのは、減価償却を使った節税です。「4年落ちの高級自動車」を買って節税する方法がよく知られています。これは2年で全額を償却できるからであり、償却期間をいかに短くするかがポイントになります。
不動産では、22年の耐用年数を過ぎた中古木造アパートを使います。22年を過ぎると4年で償却することができます。建物割合が60%の物件なら、購入価格の15%を毎年減価償却できます。
経営者が個人で2億円の物件を買えば、建物割合が60%として、毎年3000万円が減価償却できます。つまり、3000万円の所得を得ていたとしても、所得税と住民税をゼロにできるのです。こうなると手取り年収は節税分にアパートの賃料収入が加わるので、従来の2倍以上にすることができます。
ただ、日本では築22年を超える、この方法に適した木造アパートは少ないのが難点です。減価償却制度の違いから、建物の評価が過半を占めるような物件はありません。といって、制度を曲解してゴリ押しする方法を使うのはリスクが高すぎます。そこで、海外の不動産を投資対象にするのです。
移民で人口が増え、出生率も高い米国の西海岸には、このような物件があり、マーケットが安定しています。サブプライムローンがブームのときに価格が上がり過ぎましたが、その後、調整局面を経て再び上昇し始めており、価格は20年間で2倍のトレンドを維持しています。
ただし、海外の不動産なのでローンがつきにくく、日本でお金を借りるほうが金利は安く済みます。法人に貯めた内部留保を経営者へ貸付金として使うのも有効な方法になります。
法人は法人税が低い利益800万円以下にして、役員報酬を4000万円以上取っても、それに見合う不動産を買って減価償却し、所得税を減らせば手取り年収を増やすことができるというわけです。
償却の多い不動産を有効に活用していけば、資産の形成と経営者の手取り収入(役員報酬)の増額を同時に実現できるのです。
経営者の退職金を増やすには
役員報酬を増やすと、その分退職金を増やすことができます。退職金は、所得の種類でいうと給与とは異なる退職所得になります。退職所得は分離課税であり、他の給与所得などと合算して課税されませんので、年収が高い人には有利な所得です。税率が高い所得税がかからないうえ、勤続年数が長いほど、退職所得控除額も大きくなります。一般的に退職金として認められる計算方式は、次のようになります。
●経営者の退職金の計算方式
最終役員報酬×役員としての在任年数×功績倍率
功績倍率の例
社長・会長3.0、専務・常務2.5、取締役・監査役 2.0
●退職所得の計算方法
(退職金額-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額
勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
20年超 :800万円+70万円×(勤続年数-20年)
税制上有利な退職金を増やすために、やっておくべきことが2つあります。
1. 役員報酬を上げておく
2. 原資をつくる(経費として計上できて、退職金として使うときにも経費になること)
所得税が高いからと、役員報酬を低めに設定しておくと、退職金をたくさん出せなくなります。退職金を増やすには、支払う役員報酬は多く、課税される所得は低くしておいたほうがいいのです。また原資がなければ、退職金を払えません。
退職金の原資を準備するためには、保険を使うのが一般的です。例えば、半分の保険料が損金となる生命保険を使って、保険料を年払いで1000万円ずつ払い、解約したときに得られる解約返戻金の戻り率がピークになる時期を狙って5~10年ぐらいで解約するのです。
保険料の1000万円の半分の500万円が毎年損金となりますから、その分、利益を減らすことができます。そして、5年目には保険を解約して、合計5000万円を積み立てていたようにして解約返戻金を得て、退職金にします。節税対策をしながら、退職金づくりをするわけです。
ただ、生命保険には現金を使ってしまうという欠点があります。一方、不動産はローンを組むなど、現金支払いを抑えながら同様に原資づくりができます。個人の場合と同様に、減価償却が使える不動産を法人で買えば、キャッシュアウトしない費用を計上して節税し、退職金の原資がつくれます。不動産は所有物件から収益を上げることができますから、さらに有利です。
預金滞留している内部留保を有効に使う
優良な会社は、内部留保で現金を貯めています。銀行の借り入れをしなくてもいい状態になっている会社も多くあります。内部留保という法人の金融資産が日本全体で900兆円あるといわれています。この900兆円は塩漬けで多くは普通預金に入ったまま、活用されていません。
役員報酬を高くすると所得税が高くなるため、多くの企業はとりあえず、内部留保として残しているのです。法人に残った資産は、いつかは個人に戻さなければいけないので、たいてい税金が安い退職金として使われます。
しかし前述したように、所得税を節税しながら退職金を準備するほうが得ですし、所得税対策をすれば毎年の役員報酬を2倍にすることも可能です。
「とりあえず内部留保で残しておく」という発想をまず変えなければいけません。内部留保を活用するのは、資本効率を上げる近道です。
活用のしかたはいくつかありますが、私は経営者への貸し付けを提案しています。
経営者に、市場金利と同じくらいの1%未満、例えば0.5%ぐらいの金利で貸し付けるのです。
1人株主や同族役員しかいない法人であれば、金利を安くして法人から個人と、書類上動いているだけですみますが、株主がたくさんいる場合は、内部留保の使い道を決めるために、株主総会を開かなければならないなどの問題がありますので、ご注意ください。
そのような場合は、内部留保を銀行に預金として残しながら、ローンを借りる「預金担保ローン」という方法もあります。預金を残したままなので、使ったわけではなく、新たな借り入れをしただけなので、貸借対照表上には影響を与えません。
経営者の「退職金」を増やす
税制上有利な退職金を増やすために、役員報酬の額面を増やすことを提案しました。これで退職金を増やせますが、退職金の原資も利益の繰り延べでつくっておきます。
先ほどの例のように、生命保険で退職金の原資づくりをする方法も一応コントロールが可能です。しかし、保険に加入して毎年保険料を払っていたのに2年後に赤字に転落。保険を解約せざるを得ない場合、解約返戻金が少なくなってしまいます。保険は解約の時期によっては、大きく損をする可能性があるわけです。
その点、資産インフレをする不動産をいくつも持っていれば、法人の業績が悪いときには売却して益出しができます。資産インフレをするという条件から、基本的には資産を海外に持っていくことを考えたほうがいいでしょう。
不動産のような減価償却資産では、減価償却費はキャッシュアウトしない費用になりますので、お金を使わないで、利益の繰り延べが可能になります。
海外で資産を持っていると、ポートフォリオ上も安定します。ハワイは毎年少しずつ不動産価格が上がるといわれていますし、オーストラリアのゴールドコーストも値上がり傾向にあります。また、米国の空室率は平均で7%程で、築年の古い物件でも高い稼働率を示しています。つまり、先進国であれば、市場データや取引の仕組みがきちんとしているので、リスクをコントロールできるということです。
相続税納税を見据えた対策の道筋
最後にまとめを記しておきます。
まず役員や株主は所得税節税をしながら、手取り年収を2倍以上に増やします。この際、海外の不動産を減価償却のために使うので、超低金利の日本で会社の内部留保などを使って資金を調達して購入します。役員報酬を増やしておくことで、自動的に退職金も増やすことができます。こうして、個人の手元キャッシュを潤沢にしたら、相続税対策は容易です。収益不動産をローンを借りながら購入すれば相続税は大幅に軽減できますし、納税資金を手元に残しながら、資産の分割も容易になります。
ここまで分かった以上、相続人が苦労したり、資産の分割でもめたりすることはないようにしたいものです。退任の花道は最後まで自分で気を配っておくことが資産家の流儀だと考えます。
経営課題の解決に役立つ、不動産の活用法を満載
本コラムの著者、沖有人氏の最新刊『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』を発刊しました。これからの不動産を取り巻くメガトレンドを踏まえつつ、不動産固有の特徴や、それを生かした経営課題の解決法をやさしく解説しています。多額の減価償却の使い方、タワーマンション節税、相続税評価の下げ方、役員報酬の上げ方、そして手取り収入を増やすタックスマネジメントまで、著者が実績を上げている具体的な手法をまとめました。詳しくはこちらまで。
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