不動産の特徴を生かした様々な投資法を提唱する、不動産コンサルタントの沖有人氏。連載第5回は、個人が自宅を資産形成に使う「自宅投資」と、経営者が自宅を社宅にする方法の両面から、自宅を活用する方法について解説する。
私は「自宅投資」で儲けています。確定申告では家族分を含めて数千万円の譲渡益を出しましたが、無税で得ることができました。そのノウハウは拙著『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)で公開しました。そのエッセンスは次のようになります。
手厚い支援がある「自宅投資」
自宅投資とは、自分の家を住むための住居としてだけでなく、資産形成のツールとして利用する考え方です。税制も金利も重たいワンルームマンションや賃貸住宅などへ投資するのではなく、住宅ローン減税などの税制優遇があり、低利の住宅ローンが組める自宅を投資対象にするというわけです。自宅は誰にでも必要なので、それが投資として儲かるのは願ったりかなったりでしょう。
資産づくりのためには、本で書いた「7つの法則」に従い、立地などの資産性を重視し、住んで中古になっても含み益が狙え、換金しやすい物件を選ぶ必要があります。しかし、本はあくまでも理論です。実践するには個別のマンションの時価などが分からなければなりません。
その情報を得られるのが、弊社が運営している無料会員制マンション情報サイト「住まいサーフィン」(会員約18万人)です。
過去20年間に販売された首都圏・近畿圏のマンションの時価と含み益が出る確率を掲載しています。先日行った住まいサーフィンのアンケート調査では、80%以上の人が購入価格以上になっていました。少なくとも1万人以上が含み益を出している計算です。これが不動産ビッグデータの可能性でもあります。
さらに、首都圏の中古マンションの売り出し新着物件の適正価格を毎日査定し、割安物件を紹介するというサービスも提供しています。10%以上割安な物件は2~3%しか存在しないため、たいてい2~3日で買い付けが入ってしまいます。ゆえに、24時間以内に割安物件を見つけ、翌日には内見するくらいのスピード感が必要になります。10%の含み益なら、5000万円の物件で500万円なので大金です。
「この情報を使えば、自宅の住み替えをしながら、資産を形成できる」と説いている筆者として、購入、居住、売却し、次の物件を購入して、自分の理論を実証してみたわけです。自宅として1年住み、また割安な物件があったので住み替えて、数千万円の譲渡益を手にすることができました。
自宅は譲渡所得控除を狙う
ワンルームマンションや賃貸住宅といった不動産投資では、原則として物件の売却で利益が出ると譲渡益に課税されます。税率は5年以下の短期譲渡所得の場合、所得税と住民税で39%、5年を超える長期譲渡所得なら20%です(話を単純にするため、復興税については省略します)。
一方、自宅の譲渡益課税には特例があり、短期でも長期でも、1人3000万円までの利益は控除されます。物件が夫婦の共有名義であれば6000万円まで控除されることになります。さらに自宅の所有期間が10年を超えていれば、3000万円を超える譲渡益についても軽減されます。
「購入したマンションが値上がりしたのであれば、その時、次に購入する物件の相場も上がっているのではないですか?」とよく言われますが、その時点での割安物件を発見すればいいだけです。表現を変えると、購入したマンションが値上がりしたから、別の物件を探すわけではなく、割安の物件を発見したから、今の含み益を得て、次の含み益を足し合わせていくという住み替え戦略です。
もっとも、この方法は、家族が反対するのが難点です。子供の学校への届け出から、住民票を移し、電話番号が変わるなど、引っ越しの手続きが多いことに加えて「1年の間に友人ができるなど、地域コミュニティーをつくったのに……」と文句を言われる可能性があります。
そのため、引っ越しは業者に荷造りから依頼するなど、家族の負担をできるだけ軽くするような配慮を忘れてはならないでしょう。
自宅の活用で一番いいのはこうした資産形成ですが、不動産価格が下落基調の時には難易度が高くなります。現在はマンション価格も天井に近いので、法人オーナーの方には自宅を役員社宅として経費化することをお勧めします。これは新たに購入しなくても、今住んでいる住宅でできるので、経営者なら誰でも検討に値すると思います。
また、一定規模以上の不動産投資をされている方は法人をつくる方が、キャッシュフローを改善できます。高い所得税から安い法人税に移行できるからです。そんな方やオーナー社長の方に、いち早く取り組むことができる方法を伝授しましょう。
自宅を役員社宅にして、自分が借りる
マイホームは税制上の優遇がたくさんありますが、役員の場合は、ご自宅を役員社宅にするとそれ以上のメリットが受けられることがあります。
役員に社宅として貸した場合の家賃は税務通達で計算方法が決まっています。固定資産税の課税標準額に基づき計算しますが、これが市場家賃の平均8割引きになっています。つまり、2割負担ということです。なぜこうなるかというと、公務員社宅と同じ算出方法だからです。公務員社宅の家賃が安過ぎる問題はメディアでたびたび取り上げられますが、役員はこれと同じ条件を自分で使うことができるのです。
私たちは「不動産ビッグデータ」を分析して仕事をしていますので、多数のサンプルから、「8割減」以外についても様々な「コツ」を把握しています。例えば、家賃は固定資産税の課税標準額に基づく計算なので、都心のタワーマンションの中には9割下がる物件もあります。ちなみに、こうした一定の家賃負担をしない場合、不足している賃料相当額が給与とみなされて課税されます。これだけメリットがあるのですから、きちんと家賃は計算して支払って下さい。
次に、社宅をケース別に検討していきましょう。
持ち家で戸建の場合、建物部分だけを法人に売却
この場合、社宅化した方がいいケースが非常に多いです。マイホームの最大の税制優遇は3000万円の譲渡所得控除です。ご夫婦で共有なら、6000万円までの売買益は無税になります。税率は20%なので、最大1200万円の効果となります。しかし、戸建の場合、建物部分の評価は耐用年数でほぼゼロになります。1億円の豪邸でも木造建築は22年経過したらゼロになるので、土地が相当値上がりしなければ譲渡益は生まれません。こんな場合がほとんどなので、個人で持つ意味がなく、法人で経費を落とした方がいいことになります。
経費で落とせるものは様々あります。建物の減価償却、ローンの金利、固定資産税・都市計画税等の税金、火災保険料、修繕費などの維持管理費がすべて経費として計上できます。個人では経費にできないことが多いので、メリットが大きいです。
先ほどの家賃の計算には、「小規模な住宅」という面積制限があります。木造の戸建の場合は建物の床面積が132平方メートル以下が条件になります。これを超えると、計算式が変わって、小規模な住宅の約3倍になります。しかし、それでも市場家賃の70%程度になるケースが多いので、社宅化は意味があります。
また、「豪華社宅」と認定されると、市場並みの家賃相当額になります。豪華社宅は240平方メートルを超えた物件に総合勘案して判定するとされていますが、この認定は実際に行うことは難しいと思われます。気になるようであれば、市場家賃も査定してもらえばいいですが、戸建の場合には面積が大きくなるほど、平方メートル単価は下がる傾向にあります。結果的に、家賃は土地を含めた物件価格の2~3%とかなり低い金額になるのが一般的です。2億円の豪邸でも月30万~50万円程の家賃と想定されます。
現在の自宅を法人所有にするためには、建物のみを簿価で法人に売却します。家賃は建物に発生するので、土地まで法人が購入する必要はありません。代々引き継いだ土地の場合は譲渡益が95%とみなされる場合になりやすく、これに20%の税率がかかるので、売買金額の約2割のキャッシュを失うことになります。こんな税金を生まないためにも建物だけを売却するのです。この場合、相続時のメリットがあるので、税務署に土地の無償返還届を提出の上、法人から個人に地代(土地の固定資産税の2~3倍相当)を支払います。
この方法のネックになりそうなこととしては、法人側でローンが十分に借りられない場合が考えれます。しかし、今の異次元の金融緩和の中で、不動産に担保を付ければ住宅ローン並みの条件で借りることは難しくありませんので、金融機関に相談をされてみて下さい。
持ち家がマンションの場合、個人で取得して先ほどの譲渡所得控除を使うことも検討余地があります。しかし、含み益が出るかは確約できる問題ではないので、確実性を取るなら、法人の社宅にした方が無難です。
マンションの場合は、面積制限が異なる
持ち家の特徴は戸建てと同じですが、面積制限が異なります。マンションの場合は99平方メートル以下が小規模な住宅になります。この際に注意していただきたいのが、マンションの場合、床面積は共用部分の持ち分相当面積が含まれることです。例えば、バルコニーやエントランスや廊下がこれに当たります。自分が住んでいる専有部分の面積が90平方メートルでも、99平方メートルは超えてしまいます。
正確な小規模の判定は、固定資産評価証明書の現況床面積で行います。通常の専有面積の2~3割増しなので、専有面積は80平方メートル程度が限界で、物件によっては70平方メートルを切る必要があるでしょう。法人に移転する際は事前に家賃の計算にもこれが必要になるので「固定資産評価証明書を下さい」と不動産仲介の方に伝えて下さい。
住んでいる家が賃貸の場合
賃貸の場合は簡単です。法人が借り主になればいいのです。今個人で借りているなら、法人で契約を結び直して下さい。法人が家主に支払う家賃の50%の金額と、持ち家の際に算出した賃料相当額とのいずれか多い金額が負担額になります。「小規模な住宅」であれば、家賃負担は市場家賃の2割負担ほどになることを考えると、家賃の半額負担を想定してもらえればいいと思います。
これ以外に、自宅で事業をやっている場合、その面積を按分した家賃等相当分を事務所使用分として経費にできる件はここでは詳細に触れません。税理士さんと相談して進めて下さい。
自宅での資産形成に成功する方の特徴
最近、セミナーを開くと少なくとも1人は自宅投資で利益を出している方が御礼に来られるようになっています。また、経営者の方は拙著をバイブルにして、キャッシュフローをよくすることができたと報告してくれます。
こうした方々の特徴として、情報収集能力と決断力の高さが挙げられます。要は知っていることが大切で、自分の現状において取れる最適な選択肢を選んでいるだけなのです。答えは誰にとっても1つなわけではなく、自分にとっての最適があります。そんな選択の連続をしてもらえれば著者冥利に尽きます。
経営課題の解決に役立つ、不動産の活用法を満載
本コラムの著者、沖有人氏の最新刊『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』を発刊しました。これからの不動産を取り巻くメガトレンドを踏まえつつ、不動産固有の特徴や、それを生かした経営課題の解決法をやさしく解説しています。多額の減価償却の使い方、タワーマンション節税、相続税評価の下げ方、役員報酬の上げ方、そして手取り収入を増やすタックスマネジメントまで、著者が実績を上げている具体的な手法をまとめました。詳しくはこちらまで。
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