主な税金の中で法人税だけが減税傾向にあり、政府は2016年の法人税の実効税率を30%未満になるように決めた。法人所得は先に繰り延べた方が得になる。法人にとって決算前の恒例行事になっている利益の繰り延べには、不動産が有力なツールになりうる。それは短期で大きな金額を償却できるという不動産の特徴があるからだ。連載第3回は、不動産を戦略的に使って、法人の節税とキャピタルゲインの両方を実現する「減価償却資産投資」を紹介する。
主な国税には所得税、法人税、贈与税、相続税の4つがあり、国税庁に直接納めるので直接税といいます。この4つの直接税のうち、法人税以外は増税される傾向にあります。
法人税だけ、減税傾向が続く
所得税は、収入の高い人の税率を引き上げ、2015年度の所得税から課税所得4000万円超の人は、40%から45%になりました。住民税と復興税を含めると、最高税率は56%と相続税率以上になっています。
相続税は、消費税導入前の1988年よりも下げてきましたが、2015年1月に改正があり、相続税率の引き上げと、基礎控除額の大幅な引き下げが行われました。
2億円超から3億円以下の財産を持つ資産家は相続税率が40%から45%に、6億円超の場合には50%から55%に上がりました。最高税率が50%から55%に引き上げられたわけです。相続税率の引き上げは、資産家に大きな影響を及ぼしました。
贈与税は、直系尊属からの贈与は税率が緩和される一方、それ以外は税率等が引き上げられました。
半面、法人税は減税されています。「ビジネスはグローバル化しているのに、日本の法人税は高く、国際競争力が落ちる」と非難されてきました。税率が高いままでは、日本から脱出して、本社をシンガポールや香港などに置いたほうがいいのではないかと考える経営者も増えていきます。
加えて、法人税率が高い分、ほかのメリットが大きくなければ、海外の企業が日本に進出してこなくなります。
そこで政府は、15年度は2.51%、16年度は0.78%以上を引き下げ、5年をメドに合計6%下げると表明しました。そして、16年度は実効税率で30%を割り、29.97%となることが決まりました。
役員報酬への所得税率は下げられる
経営者の立場からは「所得税や相続税が増税され、法人税は減税される」という傾向から、所有する法人に利益を残すのが最も効率が良いという発想になるのは自然なことでしょう。役員報酬を多くもらうよりも法人に留保した方が得のように思います。しかし、所得税率を法人税率並みにできるなら話は変わってしまいます。その答えは前回、詳細に示しました。
その概略だけ書くと、まず個人の所得税率は減価償却によって最高税率の56%から下げることができます。また償却後の資産を売却して、譲渡益課税20%で売却益を手にすることができます。合わせれば、手取り収入を2倍にすることができるわけです。例えば、1億円ぐらいの不動産投資をすると、手取り年収を1000万円以上増やすことができます。これだけで10~15%の単年度利回りを実現する商品と考えることができます。
一方、法人税が将来下がるのが確定しているということは、法人の決算では利益を先送りすれば、節税につながります。
法人は税金を先送りしたほうが有利
分かりやすく言えば、消費税が5%から8%に上がるときには、5%のうちにクルマを買い替えようと駆け込み需要が増えました。法人税率は逆に下がるわけですから、30%のときに利益3000万円を出して課税されるよりも、500万円にしておき、減らした2500万円を来期の利益に先送りして、将来課税されたほうが税額を減らすことができるわけです。このような利益の繰り延べに使う代表格が、減価償却資産です。
利益の繰り延べ方法は、資産を取得して、その減価償却費を計上することによって利益を減らし、節税するやりかたが一般的です。
2014年には、太陽光発電設備が最も適した資産で、一定の要件を満たせば、「グリーン投資減税」が適応され、購入した年に全額償却ができました。要件を満たす太陽光発電設備は2000万円ぐらいしましたから、通常であれば法定償却年数に分けて減価償却費を計上しなければならないところを、特例として全額を経費にすることができたのです。
仮に法人の経常利益が1000万円とすると、2000万円の太陽光発電設備を購入すれば決算を1000万円の赤字にできたわけです。その損失分を、法人は9年間にわたって将来の利益と相殺することが可能で、利益の出ている企業にとっては魔法のような設備でした。
これ以外に、オペレーティングリースという方法もあります。飛行機やヘリコプターを購入して貸し出し、賃借料を得るというやり方です。オペレーティングリースでも減価償却費を計上できます。飛行機やヘリコプターよりも価格が安い、海上輸送用コンテナを使ったコンテナリースという方法もあります。
ただ、これらの方法の難点は、資産を海外の企業に貸し出すことが多くなるため、途中までのキャッシュフローは決まっているものの、最後が決まらないことです。
例えば飛行機を海外のLCC(格安航空会社)に貸し出した場合、最後の残価がプラスになったり、ゼロになったりして、固定することができないのです。売却してお金が返ってくるときには為替リスクもあり、利回りもそれほどよくありません。毎年の決算で利益の繰り延べはできますが、賃借期間が終わる8~9年後は何が起こっているか分からないという不安があります。売却するときの価格が分からないのが一番の問題です。
4年償却不動産を法人で活用する
償却に使える不動産の最たるものは木造の建物です。22年の耐用年数を過ぎると、簡便法で4年償却できます。購入代金の大半を4年で経費にできて、会計上はほとんど価値がなくなっているのに、買ったときとほとんど変わらない価格で売ることができるのです。このように短い期間で多額の減価償却費が計上でき、市場価値が落ちないものに対して投資することを、私は「減価償却資産投資」と名付けました。
2億円の物件で、建物部分が60%の1億2000円であれば、4年償却の場合、毎年3000万円ずつを経費にすることができます。建物の割合が60%ではなく、80%の物件であれば、減価償却費をさらに大きくできます。
こうした減価償却資産の需給バランスはひっ迫しているため、海外の4年償却の不動産は比較的価格が安定していて、投資リスクが少ないということも言えます。ネット利回りも5%程になり、物件によっては値上がり益も期待できます。
海外へ持っていったお金を日本に送金することを考えなければ、為替リスクは考えなくてよくなります。むしろドルのまま持っていて、円建て資産とドル建て資産で為替の分散に取り組めば、長期的な日本円の下落リスクのヘッジにもなります。
ただし、「減価償却資産」は流動資産であり、出口(売却)戦略のない取得はありえません。売却が前提となっています。
そのためには、事前に計画を立てたほうがいいです。
「これは償却を前倒しに行い、4年経ったら売る」
「このくらい高くなったら売る」
株式投資と同じように「こうなったら」という条件を決めておきます。
不動産投資は、売買の取引手数料などかかるので、購入後すぐに売却したら、利益が残りません。逆に、含み益が出る物件はなるべく早く換金した方がいいです。これらの背反する2つの組み合わせの結果として、一般的には4~8年目に売るのが資金のパフォーマンスが最大となるケースが多いです。
不動産の譲渡益を運に任せることはしない
減価償却資産投資は為替や資産価格の変動に影響を受けます。所有者に都合がいいように価格が動くとは限りません。利益を出すためには、バリューアップして売却する投資方法が必要です。
入居者の退去時にリノベーションを行い、次の入居者の賃料を上げ、節税ニーズのある日本の投資家が買いやすい物件としてつくり込むと、出口戦略も手固く行うことができます。こうしたノウハウは現地の専門家を巻き込んでの専門性の高いもので、年間15~30%の投資利回りが期待できるので、節税目的以外でも、数億円単位の資金運用先を探している投資家にとって魅力ある物件になっています。
こうした投資法を実現するには過去からのデータが整っていて、リスクがどこにあるかが分かる市場でやることが大切になります。安心なのは先進国の既存市場で、代表例は米国です。全米の賃料は20年間で1.7倍になり、取引価格は2倍になっています。
人口が増加するところで不動産価格は上がりますし、賃料に比例して不動産価格は変化します。米国は出生率が高いのと移民を多く受け入れているので不動産価格が安定的に上がっています。また、賃料と不動産価格は連動するので、これが安定的にインフレ状態にあることは正常な成長軌道にあると言えます。
そんな米国の中でも、人口が増えて不動産価格が上昇しているエリアは限られます。そうした価格の上昇余地が高いエリアを狙った方が投資妙味は出てきます。
海外の成長力を法人の経営戦略に取り込む
今回紹介した、4年償却の不動産を使う投資法では、法人の利益がある時に繰り延べを行い、保有している間に資産価値を上げて、譲渡益を出せる準備をしておくことが重要です。
人口減少から経済成長が望みにくい日本においても、国内企業が海外資産を持つことで海外の成長力を取り込むことができます。国内が超低金利なだけに海外の運用利回りとのスプレッドは大きく、長期的には成長力の差から円安傾向になりやすいと考える方も多いと思います。
過去に経営環境が急速に悪化する事態が何度となく起きています。リーマン・ショックや東日本大震災は記憶に新しいことです。またいつの日か同様の経営危機がやって来るかもしれません。
その際に、海外資産が含み益を出していると損失をカバーすることができます。「B/S(貸借対照表)の隠し玉としての海外資産」と考えると、経営危機を経験したことのある経営者にはその意味合いがよく理解できるものと思います。
経営課題の解決に役立つ、不動産の活用法を満載
本コラムの著者、沖有人氏の最新刊『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』を発刊しました。これからの不動産を取り巻くメガトレンドを踏まえつつ、不動産固有の特徴や、それを生かした経営課題の解決法をやさしく解説しています。多額の減価償却の使い方、タワーマンション節税、相続税評価の下げ方、役員報酬の上げ方、そして手取り収入を増やすタックスマネジメントまで、著者が実績を上げている具体的な手法をまとめました。詳しくはこちらまで。随時セミナーも開催しています。
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