減税傾向の法人税と増税傾向の所得税。この関係から役員報酬の金額を低く抑える経営者が多い。その結果、法人の内部留保は貯まっていき、無借金経営の会社が増えるが、資金の有効な使い道は少ない。こんな袋小路へのお金の流れを、不動産を使って前提から覆す方法がある。連載第2回は、個人や法人が減価償却を有効に活用して、資産を形成する方法を解説する。この方法で手取り年収を数倍にすることも可能になるという。
経営者Aさんは「去年は手取り年収が倍増したよ」と言いました。これに対して、経営者Bさんは「所得税率が上がったので手取りが減ったな」とぼやきました。
2人とも役員報酬の金額は据え置いていますが、手取りでは2倍以上の格差がつきました。これは昨年起きた実話です。
Aさんは「来年は役員報酬を2倍に上げて、手取りは以前の4倍にする」と鼻息荒く言います。Bさんは「なんでだよ? 所得税率は上がり、法人税率は下がっているのに」と不満げです。この違いを生み出しているのが、Aさんの減価償却額なのです。
「法人税が下がるから役員報酬は抑える」策の愚
安倍晋三政権は「法人税の実効税率を2016年度に20%台に下げる」ことを決めました。一方、15年に所得税の最高税率は40%から45%に引き上げました。住民税と復興税率を含めると個人所得にかかる税率は累進で56%にも及びます。
こうなると、役員報酬を多くもらうよりも法人に内部留保した方が得のように思います。経常利益がプラスの企業経営者で、役員報酬を3000万円程度に設定する人がたくさんいるのはこのためです。
しかし、所得税率を法人税率並みにできるなら話は変わります。Aさんが取った方法を使えば、法人の経常利益を法人税が低くなる800万円以下にすると同時に、役員報酬を上げながらそれ以上に手取り年収を増やすことができます。私は自分の報酬を変えられる経営者には「役員報酬を増やしたらどうですか」と提案し続けています。
減価償却がたくさん取れる資産投資は何か?
経営者がよく行っている節税方法は、減価償却を使ったものです。「4年落ちの高級自動車」を買って節税する方法がよく知られています。これは2年で償却できるからであり、償却期間をいかに短くするかがポイントになります。太陽光発電設備が流行ったのはその年に100%償却ができたからですが、2016年は使えません。
不動産分野では、22年の耐用年数を過ぎた中古木造アパートを使います。22年を過ぎると、建物部分を4年で償却することができます。建物割合が60%の物件は毎年15%の減価償却を計上できます。
経営者が個人で2億円の物件を買えば、下の図のように、毎年3000万円が減価償却できます。つまり、個人で3000万円の所得を得ていたとしても、所得税と住民税をゼロにできるのです。
こうして、額面年収3000万円(手取り年収1800万円)の方は、税効果に加えて不動産の賃料収入がキャッシュとして入ってきて、手取りが2倍以上になるのです。
減価償却を使うという意味では、中古車の場合と節税方法は同じでも、不動産には3つの特徴があり、これを最大限活用することがポイントになります。
節税をしたくても、太陽光発電設備は実績が少なかったのでお金を借りることに難がありました。保険も節税効果がありますが、保険料として現金が必要になります。その点、不動産は購入するときに担保にすれば、お金を借りることができます。自己資金が少なくても、多額の資産を手に入れることができます。
4年償却の不動産の場合は、多額の減価償却を使うことができます。また、資産額に応じて賃料収入は増えます。ネット利回りで5%程度とすると、2億円の資産なら1000万円の純収入が得られます。繰延用のリースや保険などの商品と比較して利回りが高くなっています。
不動産が持っている、次の3つの特徴を有効に活用する必要があるのです。
1)資金が借りられる
2)多額の減価償却が取れる
3)安定した賃料収入がある
4年償却の不動産をどこで購入するか?
この減価償却で使うのに適した、築22年を超える木造アパートは、日本にはあまりありません。そこで国外の不動産を投資対象にします。
資産家にとっての不動産投資は失敗しないことを優先させた方がいいと私は常々伝えています。開発予定の話や新興国の投資案件は化けるかもしれませんが、身動きが取れなくなるリスクもあります。実際の話として、架空の詐欺案件、開発予定の変更や遅延、完成しても稼働率0%で誰も入居しない物件は、実はたくさんあります。
資産家にとっての安心材料は既に市場が存在していることと、過去からのデータが整っていてリスクがどこにあるかが分かることです。そうした安心を得るには、先進国の既存市場に投資することです。
代表例は米国です。全米の賃料は20年間で1.7倍になり、取引価格は2倍になっています。米国は出生率が高く、移民を多く受け入れているので不動産価格が安定的に上がります。また、賃料と不動産価格は連動するので、これが安定的なインフレ状態にあることは正常な成長軌道にあると言えます。
また、よく質問されることに「築40年の木造アパートなんてボロアパートなのではないか?」というものがあります。しかし、日本と米国では市場構造がそもそも違います。日本では不動産取引は新築中心の市場ですが、米国では8割以上が中古取引であり、新築はあまり建ちません。投資案件の平均築年数が既に40年を超えています。
特に、サブプライムローン問題以降、持ち家取得のハードルが上がりました。賃貸層が増え、新築が減ったことで、全米の平均の空室率は7%と過去20年間で最低となっています(ちなみに日本の全国平均は18%です)。購入する物件は稼働率90%が当たり前で、長期的に資産インフレしているという市場なのです。
日本では建物評価は築年とともに下がるのが原則です。所有者が変わっても減価償却したものが引き継がれます。このため、借入れできるローン金額も下がっていきますし、償却に使える建物評価額も減っていきます。
日本と米国の資産評価の違い
これに対して米国では不動産の評価が時価で行われるので、資産インフレ状態にあれば築年に無関係に評価は高くなっていきます。また、所有者が変わったときは、その時点の時価評価の価格で最初から償却を始めます。
この結果として、築年の古い物件の建物と土地の評価割合は、日本では20:80なのに対して、米国では逆の80:20になります。減価償却を使いたいなら、米国の方が圧倒的にいい理由がここにあります。
また、米国だと1000万円をかけてリノベーションすれば、賃料アップと稼働率の改善で1000万円以上のバリューアップをすることができます。日本ではリノベーションが評価されない面があるので、こうした成功事例は限られます。
つまり米国で不動産投資をしている人は、
不動産を購入→バリューアップさせる→賃料の上昇→購入価格以上で売却
ということを一般的に行なっています。賃料を2割上げるためには、どういう投資をすればいいのかに長けている人が多く、それを評価する土壌があるという点で、日本とは異なります。
そもそも日本の木造住宅でも、22年以上経ちながら立派な家はたくさんあります。現在建てられている戸建ての品質も高いものが多いです。そんな状況にありながら、価値が実際よりも低いのは国民の資産を過小評価している損失であり、評価制度自体を変更した方がいいと私は考えています。
日本で給与水準を上げるのは困難を伴いますが、既に所有している資産を健全にインフレさせることは十分可能です。資産が稼いでくれる割合を増やすことが少子高齢化社会への処方箋の1つとなるはずです。
米国の中でも、人が増えて不動産価格が上昇しているエリアや建物割合が多いエリアは限定されます。これに加えて、価格の上昇余地が大きいエリアを狙った方が投資妙味は出てきます。
例えば、今私たちが注目している投資手法は、訳あり物件を購入してリフォーム後に適性賃料で埋め直して売却する方法です。こうしたノウハウは現地の専門家を巻き込んでの専門性の高いもので、年間15~30%の投資利回りが出るので、投資家にとっても魅力ある案件となっています。日本と違い、資産インフレを期待できる海外ではキャピタルゲインが狙える出口(売却)戦略が重要になってきます。
個人が減価償却を使うように、法人もこれを使うのが有効です。法人税率は下がっていく方向なので、今の利益を将来に繰り延べすることはそれだけで税率を下げる効果があります。これに資産インフレによるキャピタルゲインも組み合わせる戦略性も持ちたいものです。
会社の業績は良いときと悪いときと、どうしても波があります。資産インフレをする不動産をいくつも持っていれば、業績が悪いときに益出しすることもできます。これからは資産を海外に持っていく「資産分散」が転ばぬ先の杖になるかもしれません。
内部留保を経営者への貸付金にする
海外の不動産投資の最大の難点はローンがつきにくいことです。米国の居住者が不動産を買う場合なら「ノンリコースローン」という、返済できなくなっても、不動産を金融機関に差し出せば、それ以上の債務を負わない仕組みがあります。しかしこのノンリコースローンは、日本に住んでいる人には原則貸してくれません。金利も5%ぐらいと高いので、日本で借りるほうが金利は安く済みます。
最も良いのは、会社に貯まっている内部留保を代表者や役員が借りることです。内部留保を経営者への貸付金にして、減価償却資産投資ができる物件を購入するのです。この他、内部留保資金や不動産を担保として購入資金を借り入れる方法があります。いずれにしても日本で低利で借り入れすることがポイントになってきます。
また、オーナー経営者にとっては、内部留保をいくら貯め込んでも、いずれ退職金の形を取るなりして、個人所得に持って来る必要性が出てきます。そのためには毎年の役員報酬を増やしておく必要がありますし、これを手取り年収を増やしながらできるかがカギになってきます。
冒頭で経営者のAさんが「来年は役員報酬を2倍に上げて、手取りは以前の4倍にする」と言っていました。ここで注意しなければならないのは、役員報酬を効果的に上げられるタイミングが期初の3カ月に限られることです。
前述の例で、役員報酬を来期の4月から6000万円にするのであれば、理論上は、それに合わせて同じくらいの償却額を使える物件を買えばいいことになります。額面年収を2倍にして、その節税までやると、以前の年収の4倍にすることも可能というわけです。
太陽光発電設備でもそうですが、節税資産への投資はリスクを低減し、リターンを上げることをバランスよく行う必要があります。
リスク・リターン管理が最も重要
4年償却不動産のリターンを上げる方法の最たるものは、建物割合が多い物件を購入することです。建物の割合が60%ではなく、80%の物件であれば、減価償却費をさらに大きくすることができます。
60%では単年度の利回りが節税効果を含めて10%ぐらいになります。これが80%だと償却額が増えるので14%ぐらいまで上げることができます。つまり建物割合が多い物件を選んだほうがいいということになります。
半面、海外不動産投資のリスクとしては、為替リスク、売却価格下落リスク、ローンのリスクなどがあります。
ただ、海外へ持っていったお金を日本に送金することを考えなければ、為替リスクは考えなくてよくなります。むしろドルのまま持っていて、円建て資産とドル建て資産で分散しておけば、長期的な日本円の下落リスクのヘッジにもなります。私たちのお客さんの中には、ご子息の留学資金や旅行資金に使われる方も多いです。
このように、様々な使い方がある不動産投資なのですが、本コラムで伝えられる内容には限りがあります。詳しくは拙著『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』(日経BP社)をご参照ください。随時セミナーも開催しています。
大切なのは選択肢を増やしておくことだと考えます。知っているか知らないかで大きく変わってしまうのが不動産です。個人は人生の、法人は経営の選択肢を常に多く持ち、的確に判断してもらいたいものです。
経営課題の解決に役立つ、不動産の活用法を満載
本コラムの著者、沖有人氏の最新刊『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』を発刊しました。これからの不動産を取り巻くメガトレンドを踏まえつつ、不動産固有の特徴や、それを生かした経営課題の解決法をやさしく解説しています。多額の減価償却の使い方、タワーマンション節税、相続税評価の下げ方、役員報酬の上げ方、そして手取り収入を増やすタックスマネジメントまで、著者が実績を上げている具体的な手法をまとめました。詳しくはこちらまで。
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