日本には空き家が800万戸以上あることが国の調査で判明しています。高齢者の持ち家率が80%と高いために、今後も増え続けることは予想に難くないでしょう。これに対して政府も対策に本腰を入れています。2015年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」を制定しています。この法律の大きなポイントは、「特定空き家」として認定されると、土地の固定資産税が最大6倍になることとなり、空き家を放置することが許されなくなりつつあることです。

 また、実家を相続する人には朗報が15年の年末にありました。16年の税制改正が閣議決定され、相続した土地売却の税負担がゼロになる道がひらかれました。相続して3年以内に建物や土地を売却した場合に譲渡所得から3000万円を特別控除するとしており、最大3000万円×20%=600万円の税金が軽減されます。これも空き家の売却を促す意図があります。

2018年までに売らなければいけない理由

 私は、将来も残す不動産以外は、2018年までに売ってしまうことを勧めています。その最大の根拠は「金融緩和=不動産価格上昇」だからです。

 アベノミクスの3本の矢の1本が「金融緩和」です。日本銀行の黒田東彦総裁は、任期の18年まではインフレターゲット2%を達成するまで金融緩和を続行すると宣言しています。

 日銀の金融緩和により、銀行は貸出先を増やしたいと考えます。貸出先は、担保が取れる資産、つまり不動産へのローンを増やします。その結果、自己資金が少なくても多額の不動産を買えるようになり、不動産価格が上昇するのです。

賃貸住宅価格と貸し出し態度指数
賃貸住宅価格と貸し出し態度指数
不動産への資金供給量から今後の取引価格を推計することが可能
(出典)日本銀行、日本不動産研究所よりスタイルアクト作成
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 日銀の短観には、どういった業種に貸し出しを増やしているかが分かる貸出態度指数という統計があります。これと投資用不動産価格は高い相関を示しています。

 金融緩和が行われているから、不動産価格が高いのです。黒田総裁が辞めた後は、どうなるか分かりません。金融引き締めとなれば、まず土地価格から下がっていきます。都市部の中心や駅に近いマンションの価格は下がりませんが、土地は郊外や地方など日本全国にあって供給が多いので、下げるペースが速くなります。2020年の東京オリンピックまでは大丈夫などと、悠長なことは言っていられないのです。

経営者としての判断を下す時が来た

 不動産投資では、オーナー(物件所有者)というよりも経営者の視点を持ちなさいとよく言われます。空き家・空き地問題についてもこのタイミングで経営者としての意思決定を明確に行う必要があります。

 その際の基本スタンスは、地価が人口とともに下がり、税制が売却を促進している中で、売るなら2018年までに処分した方がいい、と書きました。特段の理由がない場合は「なるべく早く」という話になるでしょうし、法人の場合には相殺できる利益や損失が出る場合にタイミングに合わせて行うことになるでしょう。

 いずれにしても、判断軸と判断材料を提示したので、決める準備はできました。売却の際には、「納得」の取引をしてもらいたいものです。取引事例はその当事者だけに関わるものではなく、次の取引の価格根拠になるものです。ゆえに、自分勝手に安く売っていいという話にはなりません。いくら日本の人口が減るとしても、日本全体の資産価値を安易に下げるのは国民の資産の喪失につながると考えてもらいたいものです。

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過去のコメント

  • 当方の居住地付近は「弩でかい」家がたくさんありますが、そのような物件は建てるに金がかかり、修繕代と固定資産税がかかり、取り壊すにも金がかかる・・そもそも家というものは大きければ大きいほど良いのでしょうか?いつかは取り壊す時が来る事を考えて建てる人間がどれほどいるのでしょうか?大鑑巨砲主義はもう時代遅れではないでしょうか・・?

  • 多分1990年頃のことだったと思いますが記事を読んで思い出したことが有ります。
    当時は結婚後で不動産の購入を検討していた一方で、その頃から将来的には日本の人口が減少することは知っていたので、パソコン通信(懐)の不動産関係のフォーラムで・・・・、
    「人口が減るのだから不動産も値下がりするのではないか?今値上がりしているからと言って急いで買うと損失を被るのでは?」
    ・・・・という質問を投げかけた所、複数の不動産業の関係者から、書き方は柔らかいものの諌めるような内容のレスをいくつも頂きました。曰く・・・・
    「買いたい時がその人の買い時なのだから
    冷水を浴びせるような発言は如何なものか」
    「30年も先のことを考えていたら不動産は買えない」
    ・・・・みたいな感じでした。
    結局1998年にマンションを購入して、案の定?値下がりを経験していますが、「持ち家がある」というのはそれだけで安心感にもつながるので後悔はしていません。なるほど、そういう意味で「買いたい時が買い時」というのはあながち間違いではないと思います。
    しかし下落が加速していくのなら若い世代の方で購入を検討されている方には20年、30年先を見据えて検討されることを強く強くお勧めします。
    20年先は遠くに感じますが20年前はつい先日のようにも感じるものですヨ。

  • 数字と事実に基づいた洞察とストーリーが、興味深い内容でした。いつも「今が買い時チャンス」と繰り返す、住宅情報メディアに、20年以上も、うんざりしていたのです。

  • 残念ながら、どの地域でも通じる話ではなく、ただコンサルタントが自らの手取りを確保するために言ってるだけにしか感じられません。一時的には収入が3倍になっても、次もその収入が維持されるわけではないのです。真に受けて売却するのは後で痛手を被る可能性大なので、慎重に見る必要があるでしょう。

  • 全くその通りです。
    昨年、親の一戸建てを相続しました。
    もう50年前に開発された分譲地で、新宿から1時間圏内とは言え、道路幅や区画形状が最近の開発地と比べて明らかに見劣りがする、住む当てもないので一刻も早く売却したいと考えています。
    と言っても相続の家屋は遺品や家財の整理廃棄から始めなけらばならずこれが大変、結局古家の処分まで含めると手間ばかりかかって現存価値なし、相続協議では誰も価値を認めず押し付け合い私が貧乏くじを引いた次第です。

  • 不動産流通コストが高すぎる日本では、何を言っても不動産を売買することは非常に難しい。買って3%、売って3%、買い換えて3%。これだけで9%の資産価値がなくなる。かつてはデフレの世の中で様々なサービス価格や手数料が大きく下落したのに、不動産仲介手数料だけは下がらない。土地の値段が長期下落トレンドだとしても、長期で賃貸住宅に住み続けるというのは高齢になった時には非常にリスクが高い。本来なら生活スタイルが年齢と家族構成の変化に伴って不動産を安価な費用で買い換えられるなら不動産価格が市場全としてはより自然に形成されるはず。今の不動産業界が住宅ストック(空き家問題)と日本経済の癌。

  • 数字と事実に基づいた洞察とストーリーが、興味深い内容でした。いつも「今が買い時チャンス」と繰り返す、住宅情報メディアに、20年以上も、うんざりしていたのです。

  • 福岡って今のところ人口が増え続けているんですけど、それでも土地の価格は下がるんでしょうか?

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