10年で17%下がった全国の土地価格が、今後はさらに下がる、と予測する不動産コンサルタントの沖有人氏。近著『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』では、そうした環境下でも不動産の持つ特徴を上手に生かして、経営課題の解決に役立てる方法を伝授している。不透明な印象が強い不動産取引の実際をビッグデータを駆使して明らかにし、顧客の利益を第一にする取引を普及させたいという。沖氏がこれからの不動産戦略を伝授する連載の第1回は、地価が下落するトレンドを再検証するとともに、その中でも有利に土地を売るための方法を解説する。
全国の土地価格はここ10年で平均17%下がりました。これが日本の現実です。
「不動産は持っておけば、資産価値が上がるものだ」という土地神話は終わりました。バブル景気の崩壊を境に、不動産の価値に対する考え方は大きく変わっています。時代は大きく変わっているのに、昔の土地神話にしばられている人が少なくありません。
本コラムをお読みの方は理解していても「土地神話」に縛られている親を説得するのが難しいという方は多いと思います。相続・事業承継によって資産が引き継がれる中で、的確な判断をしていただくための判断軸と判断材料を提供するのが本連載の主旨です。
過去10年の土地価格と人口の関係
47都道府県の過去10年の土地価格の動きと人口の増減の相関関係を示したもの。東京都が一番右の点で、唯一、人口も地価もプラスになっている
(出典)国土交通省地価公示と総務省人口推計からスタイルアクト作成
このグラフは、過去10年の土地価格の動きと人口の増減の相関関係を示したものです。10年で地価が2%上がっている東京都では、人口も約7%増えていますが、大半の県では人口が減り、地価も下がっています。2%上がっている東京でも固定資産税等を払えば、資産保有の収支はトントンです。
この地価と人口のトレンド線は、人口が減っているところほど地価が下がりやすいことをはっきりと示しています。逆に言えば、人口が増えるところほど地価は維持されやすいということが分かります。出生人口よりも死亡人口が多い日本では不動産を買う人よりも売る人が多くなります。人口が不動産の需給バランスを決めているのです。
保有すべき土地は人口が増えているところに限るわけですが、今は増えていても10年後、20年後も人口が増えなければ、土地を保有し続けるほど収支が悪化することになります。
国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の人口はすでに右肩下がりで、これから下げ幅が拡大していきます。2010~15年で下がり始めて、下げ幅は拡大していき、増えることはありません。今から50年後の2066年には8000万人ほどで4600万人も減り、100年後の2110年には日本の総人口は4300万人弱で、今の人口の1/3ほどになってしまいます。
次の表にあるように、都道府県別の地価の10年トレンドの表を見ると、今後地価が上がるのは東京都だけで、それ以外の道府県はすべてマイナスになっているのが分かります。
過去10年の土地価格の推移
※10年前を100%とした場合の現在の地価水準が今後も続くと仮定した場合の将来の地価水準
10年複利で計算している
(出典)国土交通省地価公示からスタイルアクト作成
土地価格は長期的に大幅に下がる
この表は、10年前の何%まで地価が下がったか(上がったか)を基に、これからの50年間を予測しています。人口が増えるであろう東京都は2%ずつ地価が上がっていて、50年後は資産価値が10%増える計算になり、持っていても良い資産となります。逆に大きく下がっているのは徳島県です。この10年間で40%も下がっていて、50年後は現在の8%の価値しかなくなると予測できます。
これに加えて、不動産資産には、固定資産税と都市計画税(一部地域を除く)として課税評価額の1.7%が毎年課税されます。つまり、東京都以外は資産価値の目減りと税金を合わせて、毎年3%以上のロスを生み続けるのです。
過疎や人口減により、このような物件が全国で増え、今後社会問題になることが予想されます。国や地方もこうした土地を引き取ってはくれません。売るに売れない不動産にも、切り離すことができなければ税金を払い続けなければならないのです。いずれタダでも買ってくれない土地が大量に生まれることでしょう。
残す資産を決める5つの理由
個人でも法人でも「なんとなく大事に」持っているだけでは、土地はリスクになる一方です。
土地を守ろうとする人は「創業の地」や「おじいちゃんが大切に守っていた」など、土地に本来なかったレッテルを貼りがちです。
不動産をたくさん持っている人は、「これは絶対に手放さない」など、最初の段階で残す資産を決め、それ以外のものに対しては、気持ちも切り離したほうがすっきりします。
「思い切り」という言葉から分かるように、思いを切らなければ、前に進めません。客観的に残すべき理由は、5つあると考えています。
- 人口増加エリア
- 再開発エリア
- 観光客の増加エリア
- 災害リスクが低い土地(震災や河川の氾濫など)
- 容積率200%以上で高度利用できる土地
これらに該当しないのなら、残したい理由をはっきりさせるべきです。
土地を売る場合に、最も難しいのが相続のケースと言われています。
相続が発生すると、その10カ月後に相続税の申告・納税をしなければなりません。昔は土地を物納することもありましたが、バブル崩壊後の地価が下がっている中、物納をすることがほぼ許されなくなりました。四十九日を過ぎるまでは契約行為は縁起でもないと考えると、残りの期間は8カ月ほどになります。納税に遅れることなく売却を済ますには売り方がとても重要になってきます。
土地を売るのは容易ではない
そこで、あわてて売ろうとすると一族の間でもめ事になりがちです。
「あんな業者に依頼するよりも、私の知り合いの方がいい」とか、「もっと高く売れるはずなのに、あんな安く売ってしまって」とか、共有の資産に手を出すと、いわゆる「争族」の始まりになります。いちどこの争族が始まると、修復は不可能です。1人が弁護士を立てたら、ほかも立てることになり、お互いが話し合うことはなくなります。第三者が円満に寄りを戻させた事例を私は見たことがありません。争族にならないためにも売り方には関係者の納得が必要になります。
この難問を解決するために開発された方法があります。売却の結果として、3つの特徴がはっきりしています。
- 相場より2割ほど高く売れる
- 3カ月で確実に換金可能
- 売れた後に売り主間でもめない
この結果を生み出す方法を説明しましょう。まず売却の依頼を受けたら、土地を買うことを仕事としている事業者(例えば、マンションやアパートや戸建ての開発事業者がこれに当たります)で購入可能性があるすべての会社100社程度に持ち込んで検討してもらいます。持ち込む先は、エリアや土地の特徴(例:高いものが建てられるか? 道路との接し方は広いか?)によって決まりますが、全国で数千社の買い手がいる中から絞り込みます。ここで大事なのは情報がその会社以外に漏れないことなので、守秘義務は厳にやってもらっています。
土地情報が持ち込まれた事業者100社の中には土地の仕入れ目標が未達の会社が2~3社あります。こうした会社を業界用語で「お腹がすいている」と言います。こうした会社は多少高くても買ってくれます。そうした数社に最後にオークションをしてもらいます。こうして期日までに高値で売り切ることができるのです。相続人に随時状況報告をしながら公明正大に取引を行うため、もめることがないのです。この方法は広告をして待っているのはなく、丹念に100社ほどを廻らないといけないので、かなり労力がかかる仕事になります。
こうして、売却できると、分割できない不動産が換金されて分割可能な現金資産となり、差し迫った納税申告期限までに納税資金が用意でき、取引に悔いを残さず、家族間でもめることもなくなります。
こうした売り方を私たちの場合は「スタイルランド」と呼んでいます。実際にやるには、事業者が買うような規模感の土地であることや事業者目線での価格査定をしてみる必要があります。
日本には空き家が800万戸以上あることが国の調査で判明しています。高齢者の持ち家率が80%と高いために、今後も増え続けることは予想に難くないでしょう。これに対して政府も対策に本腰を入れています。2015年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」を制定しています。この法律の大きなポイントは、「特定空き家」として認定されると、土地の固定資産税が最大6倍になることとなり、空き家を放置することが許されなくなりつつあることです。
また、実家を相続する人には朗報が15年の年末にありました。16年の税制改正が閣議決定され、相続した土地売却の税負担がゼロになる道がひらかれました。相続して3年以内に建物や土地を売却した場合に譲渡所得から3000万円を特別控除するとしており、最大3000万円×20%=600万円の税金が軽減されます。これも空き家の売却を促す意図があります。
2018年までに売らなければいけない理由
私は、将来も残す不動産以外は、2018年までに売ってしまうことを勧めています。その最大の根拠は「金融緩和=不動産価格上昇」だからです。
アベノミクスの3本の矢の1本が「金融緩和」です。日本銀行の黒田東彦総裁は、任期の18年まではインフレターゲット2%を達成するまで金融緩和を続行すると宣言しています。
日銀の金融緩和により、銀行は貸出先を増やしたいと考えます。貸出先は、担保が取れる資産、つまり不動産へのローンを増やします。その結果、自己資金が少なくても多額の不動産を買えるようになり、不動産価格が上昇するのです。
賃貸住宅価格と貸し出し態度指数
不動産への資金供給量から今後の取引価格を推計することが可能
(出典)日本銀行、日本不動産研究所よりスタイルアクト作成
日銀の短観には、どういった業種に貸し出しを増やしているかが分かる貸出態度指数という統計があります。これと投資用不動産価格は高い相関を示しています。
金融緩和が行われているから、不動産価格が高いのです。黒田総裁が辞めた後は、どうなるか分かりません。金融引き締めとなれば、まず土地価格から下がっていきます。都市部の中心や駅に近いマンションの価格は下がりませんが、土地は郊外や地方など日本全国にあって供給が多いので、下げるペースが速くなります。2020年の東京オリンピックまでは大丈夫などと、悠長なことは言っていられないのです。
経営者としての判断を下す時が来た
不動産投資では、オーナー(物件所有者)というよりも経営者の視点を持ちなさいとよく言われます。空き家・空き地問題についてもこのタイミングで経営者としての意思決定を明確に行う必要があります。
その際の基本スタンスは、地価が人口とともに下がり、税制が売却を促進している中で、売るなら2018年までに処分した方がいい、と書きました。特段の理由がない場合は「なるべく早く」という話になるでしょうし、法人の場合には相殺できる利益や損失が出る場合にタイミングに合わせて行うことになるでしょう。
いずれにしても、判断軸と判断材料を提示したので、決める準備はできました。売却の際には、「納得」の取引をしてもらいたいものです。取引事例はその当事者だけに関わるものではなく、次の取引の価格根拠になるものです。ゆえに、自分勝手に安く売っていいという話にはなりません。いくら日本の人口が減るとしても、日本全体の資産価値を安易に下げるのは国民の資産の喪失につながると考えてもらいたいものです。
経営課題の解決に役立つ、不動産の活用法を満載
本コラムの著者、沖有人氏の最新刊『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』を発刊しました。これからの不動産を取り巻くメガトレンドを踏まえつつ、不動産が持つ固有の特徴や、それを生かした経営課題の解決法をやさしく解説しています。多額の減価償却の使い方、タワーマンション節税、相続税評価の下げ方、役員報酬の上げ方、そして手取り収入を増やすタックスマネジメントまで、著者が実績を上げている具体的な手法をまとめました。詳しくはこちらまで。
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