カープの組織図の上では、スカウトたちが所属する編成部は、オーナー直属の部門ではない。

 しかし、1年に4、5回開かれるスカウト会議には、すべてにオーナーが直々に出席。スカウトたちと直接会話をしながら指名候補選手のプロフィールを確認し合うのが「伝統」になっている。このことから、広島カープのスカウト陣は「オーナー直属の部門」と考えるのが実情に即しているだろう。

 先々代オーナー・松田恒次(在任1967~70)、先代の松田耕平(1970~2002)、そして現在の松田元(はじめ、2002~)。歴代のオーナーたちは、ずっとスカウトたちの活動に寄り添い、彼らが選び抜き、そのプレーぶりを撮影してきた「カープ戦士候補」たちの映像を真剣に見続けてきた。

選手を息子として育てていく

 「(耕平)オーナーが練習試合を見に行こう! っておっしゃるんで、ある学校のグラウンドにお連れしたこともありますよ。そりゃあ、びっくりしましたよ。(この頃の)カープのオーナーって、マツダっていう大会社の社長でもあるわけですよ。そんな多忙な方が、気になる選手がいるからって、自分で見に行くって、そんなオーナー、プロ野球にいませんよ」。スカウトの宮本が逸話を教えてくれた。

 例年、新人選手の正式契約が済み、選手と家族がスカウトたちとマツダスタジアムを見学した後、オーナー主催の歓迎食事会が催される。その席で、必ずオーナーのあいさつの中に織り込まれるくだりがある。

家族主義で選手を育てる松田オーナーは、球場内の執務室に自らの家族の古い写真を飾っている(写真:橋本真宏)
家族主義で選手を育てる松田オーナーは、球場内の執務室に自らの家族の古い写真を飾っている(写真:橋本真宏)

 「今年もまた新しい家族が増えたことを、とてもうれしく、誇らしく思います。お父さん、お母さん、私はみなさんの息子さんを『私の息子』として育てていきます。どうか、ご安心ください」

 広島カープには「松田ファミリー」という言葉がある。オーナーを家長として、そこに働くすべての人を家族として敬い、時に厳しく、時に温かく指導しながら育てていく。その伝統はこの組織の理念になっている。 

(文中敬称略、文:安倍昌彦=スポーツジャーナリスト、「日経トップリーダー」2016年12月号の記事を再編集しました)

25年ぶりにセントラル・リーグで優勝した広島東洋カープ。長きにわたった不振のトンネルを抜け、なぜ復活できたのでしょうか。その間、勝っても負けてもファンはこの球団を応援し続けました。なぜカープはこんなにも愛されるのでしょうか。日経BP社では、松田元・カープオーナーへのロングインタビューを元に、その舞台裏を探る『広島カープがしぶとく愛される理由』を発売しました。スポーツジャーナリスト、安倍昌彦さんにもカープのスカウト陣の底力について寄稿していただいています。

<主な内容>
  • これからも、カープの強さは続くのか?
  • 「(日本シリーズに)負けて良かった」と言うファンの真意
  • 球団の歴史から見る、「カープ愛」の源泉
  • 勝った翌日に記念Tシャツを売りたくて自社工場を作りました
    ヒット連発! カープグッズのつくり方
  • 主役は選手ではなく「お客さん」
    「また来よう」と思わせるマツダスタジアムの魅力
  • 江夏、津田、黒田、新井、野村……カープの男気たち
  • 原石を選ぶスカウトの選球眼
  • スポーツジャーナリスト 安倍昌彦氏(寄稿)
  • カープをもっと好きになる厳選グッズ、書籍 ほか
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