まず、1つめの柱となったのは新球場だ。これには松田オーナーの夢が詰まっている。カープは長年、原爆ドーム近くにあった旧広島市民球場を本拠地としてきた。しかし、1957年に完成した旧球場の老朽化は、2000年代に入ると隠せなくなった。当初は、建て替えも検討されたが、予算の問題などで頓挫。結局、広島市はJR広島駅から800mほどの場所に新設することに決めた。

新球場でも「とにかくお金がない」

 「旧球場を建て替えていたら、250億円は必要だっただろう。別の場所に新築することで建設費は90億円にまで抑えられた」

野球も、それ以外も楽しめるマツダスタジアム
野球も、それ以外も楽しめるマツダスタジアム

 マツダスタジアムの設計を担当した、環境デザイン研究所の仙田満会長はこう語る。コンペに参加する前に旧市民球場を視察した際、市の担当者から「とにかくお金がない」と言われたのを、今でもよく覚えているという。

 新球場に対して松田オーナーが望んだのは、3世代がともに楽しめる「競技場」にとどまらない「集いの場」であること。野球が大好きなおじいさんやおばあさんの世代が、球場に来て楽しむことができればいい。そうすれば、親の世代も、子供たちを連れて球場を楽しむことができるからだ。

球場内にはカバの人形がいる。子供たちの間でも人気だ(写真:橋本真宏)
球場内にはカバの人形がいる。子供たちの間でも人気だ(写真:橋本真宏)

 それに、子供向けの施設を多く手掛けてきた仙田氏は、「遊環構造」という手法で応えた。この遊環構造とは、回遊性がある、変化に富んでいるなどの条件からなる、独自の設計手法だ。観客席をぐるりと一周できる、長さ600m、最大幅12mのコンコースや、27種類にも及ぶ座席のバリエーションはそれを体現している。

 「周回していろいろな席があることを目の当たりにすると、『今度はあの席で試合を見てみたい』と思うようになる」と仙田氏。遊園地や縁日のように子供を遊ばせる施設やパーティールーム、多彩な飲食店は、野球に関心の薄い人にも球場へ来る楽しみをもたらした。今でこそ観客席を埋め注目を集める「カープ女子」だが、「女性ファンまでは思いが至らなかった」というのが松田オーナーの正直な感想だ。

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