地図の一覧性と、検索性を、フォントと色で実現
和田:従来は商業施設とか医療機関などを、建物の塗り色で区別していましたが、今回はそれだけでなく、文字の色も、同じ系統のものを同じ色に揃えました。そのレイヤーにフォーカスするとピッとそこだけ目に入ってくるという仕掛けです。
山中:ああ、それでか。ひとつスーパーを見つけると、すぐに「ほかのスーパー」が目に入ると思っていたんですが。
和田:赤が商業施設、緑が病院です。
山中:見ようと意識しなくても、一瞬ふっとそのレイヤーに視線を合わせると、ダダッと他の同じ種類の施設が見えてくるという。人間の目(というか、脳)は、同じ種類のものを探すようになっているんだなと実感しました。うまくできてます。
今和泉:それだけじゃありませんよ。区名や町名、通りの名前も、じっくり見るとやや極端なほど、レイヤー別にフォントが変えられていますよね。
市川:そこは意図的に、極端にしました。ネットの地図だと、目標物の情報は拡大率によってランダムに、目立たない字で出てきますが、これは先述の優先順位で編集した上に、文字色の違いで分類しました。
山中:前編で出てきた、紙の地図の持つ「一覧性」と、ネット地図の「検索性」を、デザインと編集の力で両立しようとしているわけですね。
今和泉:これまで商業施設には格段に強かったマップルですが、パッと見、病院も目立つようになりました。これは大きな変化かなと思います。あと、『街の達人』は、商業施設を、店舗ロゴのアイコンで入れていますが、こちらの『ハンディマップル 詳細便利地図』シリーズでは、赤い文字で統一したんですね。ロゴは何故採用されなかったのでしょうか。
山中:さすが、細かい…。
市川:『街の達人』は最もロゴのバリエーションが豊富です。街の達人に限らず、最近の地図作りはロゴマークで対応していますが、店舗ブランドが多すぎることと、合併による統廃合が多いことで覚えにくいという面もあります。店名やロゴより「スーパー(商業施設)であること」を伝えるべく、書式を統一しました。いずれ他の地図もそうなるかも知れません。ただ、コンビニやファーストフード店は、認知度が高く、店舗数が多いため文字だと場所をとることもあり、こちらはロゴで表現するのが良いだろうと判断しました。
今和泉:こちらの反響や売れ行きはいかがですか?
和田:『ハンディマップル』シリーズは「見やすい」「使いやすい」というお声をいただいております。特に手帳サイズながら見やすい縮尺の『ハンディマップル でっか字東京 詳細便利地図』の売れ行きは当社類似商品の前年比50%増と大変ご好評いただいています。「見ていて楽しい」という嬉しい感想もありました。

さまざまな紙の都市地図と、その背景の工夫をお届けしました。
見慣れない人にとっては、紙の地図は少々煩雑で、文字も色も詰め込まれた情報の氾濫のようにも見えるでしょう。しかし、紙の地図は世間のあらゆる人の動きやニーズに応えるべく、いわば都市の全体像を描いた絵として、見る者には目的地(点)以上の情報を与えてくれます。
さて、紙地図VSネット地図、のような構図でお届けしましたが、案外そうも言い切れない面もあります。紙地図に携わっていた地図会社(アルプス社)でも、編集とデザインの舞台がYahoo!地図に移り、ネット地図になった今でも紙地図の編集力を継承している例もあります。今でも進化を重ねる昭文社の編集・デザインは、紙地図の活路を開拓するとともに、紙地図にとどまらない新たな地図の形を開拓する可能性もありそうです。今後の展開が楽しみです。
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