昭文社・吉田州禎さん(ブランドコミュニケーション本部出版制作部地図編集課所属、以下吉田):逆取材になってすみません、地図を作る側として今和泉さんにお聞きしたいと思っていたのですが、地図の魅力って、どんなところでしょうか。

今和泉:私は5歳の頃に横浜市から東京郊外の日野市に引っ越しまして。それがきっかけです。

吉田:はあ。

今和泉:両親にとっても初めての土地で、とにかく、周りに何が有るかが全く分からないわけです。家族全員で、毎日が「新たな日常探し」になりました。今なら目的に応じて、色々な単語をネットで検索にかけるでしょうが、1990年はまだインターネットがありませんでした。そこで、当然のように冊子地図を見ていました。その中でも、私の地図好きに一気に火をつけたのは、御社の道路地図『シティマップル』シリーズだったのです。

吉田:おお! 具体的にどこで火が付いたのですか。

今和泉:きっかけは、バス路線が載っていたことかもしれません。たとえば鉄道路線であれば、全国の路線網や主要駅名を把握するのは難しくありませんよね。

編集部・山中(以下山中):え、そうですか?

目的地を探すために、地図を「読む」

今和泉:路線バスは鉄道よりはるかに煩雑で、バスの路線や停留所名を全て把握している人ってまだ聞いたことがありません。もちろん私も覚えられません。地図には鉄道やバス路線だけでなく、行政界、細かい路地や施設まで載っています。それぞれがどういう意味を持つのか、何につながっていくのか、冊子地図から興味が無限に拡がっていきました。

山中:で、今和泉さんはそれを確かめに実地に赴くんですよね。

今和泉:そうですね。東京都多摩地区に住んでいたので、たまに奥多摩の山々に行く機会がありました。山々に興味を持ったときは、奥多摩と似たところを地図で探します。地図を万遍なくめくりながら、奥多摩の地図模様と似た地図模様を探していくのです。こうすると、五日市(あきる野市)、檜原村、陣馬(八王子市西部)といった場所が見つかり、実際に行ってみることになります。そして「似ている」「違う」「なぜだろう」と考えました。

吉田:そうか、地図は目的地を探すものというより…。

今和泉:はい。私にとっては決まった目的地を探す道具ではなく、むしろ目的地を見つけるために見るものでした。未知の風景や場所を探す扉が地図だったのです。私は地図という読み物を眺め、地図によって興味を拡げてきました。その地図がどうやって作られたか、大変興味があって、改めて昭文社に取材にまいりました。

吉田:よく分かりました。

昭文社・市川智教さん(吉田さんと同じ部署に所属、以下市川):何でも聞いてください。

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