ネット地図は、検索して目的の場所を探すので、そのデザインは、検索結果が引き立つよう、最低限の情報をシンプルに載せています。いわば“背景”のような地図になっているのが一般的です。
一方で紙地図は、多様な用途、多様な目的物を1つの面でカバーします。言い換えると、どんな用途でもある程度の「検索」ができるようにするため、色々な“目印”が埋め込まれているのです。見る人が、検索したいという意識を向けた要素(地名、施設、通り、などなど)が、デザインや文字の共通性を通して“浮き上がる”ように工夫されていて、それが、一覧性につながっています。
目的が明確な場合は、ネットの地図が使いやすく見やすいですが、「“なんとなく”このへんに、面白そうなものがないだろうか」とか「うちのまわりって何があるのか」と、範囲や対象が明確でないときは検索では分かりません。こういうときは紙地図の出番で、意外な発見があったり、みつけられなかったものがみつかったり、ということがあります。
「この辺はスーパーと家電量販店と、コンビニもガソリンスタンドも何軒かまとまっているな。じゃ、このあたりに行って用事を済ませよう。ついでにカフェもあるなら時間も潰せるか」と、広い範囲の全体感が把握できるのは、紙地図を見てこその素早さです。仮にネット地図だけで探すとなると、どういう検索条件にするのか考えるだけでもやっかいそう。
人の目的地は最初から全て単一に決まっているわけでもなく、逆に、だいたいの土地勘を掴んでから目的地を探すと、無駄な検索の試行錯誤は減りますし、どんどん広い範囲の土地勘がついてきます。こうやって地図を繰り返し見るうちに、地図から見えてくる多種多様な“模様”から、どんな人が集まり、どのくらいの便利か、利便性や風景、人の流れまでもが見えてきます。
ネット地図の「かゆいところ」を積極的に探っている
「多様な人の使い方や動き方」が網羅され、編集されている紙地図。「エリアの全体感」をつかむことができるのは、デザインの差に加えて、「紙」だからこその面もあります。液晶画面の解像度と、サイズの問題です。
ディスプレイの解像度は急速に向上していますが、まだ紙の解像度に追いついておらず、紙地図はネット地図より細かな表現ができる余地があります。大画面のタブレットが続々登場していますけれど、ばっと広げられる紙地図に追いつき“模様”が見えてくるにはまだ時間がかかるでしょう。
なんだか、紙地図を強引に応援しているみたいに見えてきたかもしれませんが、ピンポイントの検索では原理的にネット地図に敵わない以上、韓国や台湾の例を見ても分かるとおり、紙地図ならではの特徴を訴える地図を作らなければ、衰退は目に見えています。
では、紙地図の出版社側は、具体的にどんな工夫をしているのか。地図趣味者の私が見る限り、紙地図最大手の昭文社の地図は、ネット地図では届かない「かゆいところ」を積極的に探り、デザインと編集の強みを最大限生かして進化を続けているように思えます。舞台裏を探るべく、昭文社の地図作りの本丸、地図編集課を取材しました。
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