家計債務増は出口戦略を遅らせる

 ノルウェーでは現在、家計債務の増大に対して再び警鐘が鳴らされており、このことは重要な事実として認識すべきだろう。実際、ノルウェーを訪れた筆者の目にも、住宅バブルの真っ最中というぐらい不動産価格が高騰していた。

 オスロ近郊のフィヨルドに面した4畳ほどの海の小屋ですら2000万円近くするそうだ。銀行の窓口に行き、住宅ローンの貸出金利を教えてもらったが、日本と同じぐらいの低金利を提示された。特に北欧諸国の一部では、マイナス金利の住宅ローンも存在し、身の丈に合わない住宅購入などが多く行われていることを政府は問題視しているとのことだ。

 ノルウェー中銀の報告書によると、2016年下半期末時点で、家計の消費者ローン(自動車ローン、クレジットカード等)の増加率は年間12.5%に達しているなど急速に伸びているという。消費者ローンによる損失は、他の貸出に比べ大きいが、利益も大きく損失を吸収できるとされている。

 消費者信用の規模が小さいといえども、昨今の大幅な伸び率は、家計にますます余裕がなくなり、消費縮小につながりやすい状況に陥っていることを示している。消費者ローンは一般的に高金利であるケースも多く、特に収入が失われたときにはより返済が困難になることは自明である。返済ができなくなった家計は、返済に充てるために資産売却を迫られ、最悪の場合、自宅の売却にまで至る。

 ユーロ圏と金利連動を余儀なくされているこういった国々は、最終的にECBがマイナス金利を解除すると同時期に、自国でのマイナス金利も出口に向かわざるを得ない可能性が高い。そうなれば、家計での金利支払いが大幅に増加するリスクが顕在化する。

 量的緩和の縮小以上に警戒されるのはマイナス金利幅の縮小ともいえ、家計債務の増大は非伝統的金融政策の出口戦略の舵取りをいっそう難しくさせる。スウェーデンやスイスなど、マイナス金利を導入している他の欧州諸国も家計債務が急増しており、ノルウェーと同じリスクが警戒されている。マイナス金利を採用しているユーロ圏でも同様に、金利引き上げ時に債務返済が滞る可能性は高いといえる。

 世界の市場や中央銀行の金融政策担当者が、一種の安心感に浸っている中で、債務危機への警告を率直に発したBISは、筆者はある意味で称賛に値すると感じている。金利を長期にわたり低く維持していれば債務は積み上がり、金融市場におけるリスクテイクが過熱するため、金融安定性とマクロ経済に対するリスクを増大させるとの警告は至ってシンプルなものだが、口火を切ったことは大きい。

 この状態が続けば、世界経済に重大な問題が待ち構えているとBISは懸念している。現段階でひとたび危機が起これば、主要国の中銀は、通貨価値の暴落に伴い金利引き上げを余儀なくされ、現在の経済成長に終止符が打たれるだろうと警告する。ただ、世界貿易が回復し、主要経済国の大半でGDPが改善基調にあり、過剰債務による危機の兆しを憂慮するBISからの警告にどれだけ政策担当者が耳を傾けるかが疑問視されていた。

 10月26日のECB定例理事会では、今年12月終了予定の資産買入れプログラム(QE)を少なくとも来年9月まで延長し、現行の月額600億ユーロから300億ユーロに半減することを決定した。ドラギ総裁は、当初予想されていた来年6月のQE終了ではなく、買入れ規模の拡大や買入れ期間をさらに延長する可能性のあるオープンエンド型(無期限延長)であることを強調した。

 すなわちQEの「テーパリング」ではなく、「ダウンサイジング(規模縮小)」であることを強調し、テーパー・タントラム(金融政策の変更に伴い金融市場が混乱し、実体経済に悪影響を及ぼすこと)などの、金融市場での過度の混乱を警戒していたことは、BISからの警告を素直に受け止めたとみることもできるだろう。11月2日に10年ぶりの利上げに踏み切った英中央銀行(BOE)のカーニー総裁も、次回以降の利上げペースは予想よりも遅いことを示唆するなど、ハト派的な論調に終始していたことも同様の動きといえる。

 無論、これまで大規模な非伝統的金融政策の解除を経験したことがない金融市場では、今後何が起こるかは誰も予想がつかない。ただ、次に起こる金融危機が家計債務発となると、それには今とは異なる監視が必要となる。グローバル金融危機から10年目を迎える今年は、その新たなシステミックリスクに警戒が必要になるか注目される。