過剰債務は金融危機の根本的原因の一つであり、過去に大幅な景気後退を招いてきた。特に金融サイクルがピークを迎えると、その後に銀行や金融市場に膨大なストレスが発生することを警戒している。

 家計債務が長期にわたりGDP成長率を上回る速度で成長することは、金融市場のストレスの一つであるだけでなく、経済成長にも大きな影響を与える。過剰債務状態からのさらなる与信の積み増しは、短期的には経済成長につながる効果があるものの、中長期的には経済成長抑制につながるという実証結果などもBISは示している。

 しかしながら過去の金融危機発生は、過剰な企業向け融資が一斉に不良債権化することがトリガーとなったケースが多く、実際に家計債務が金融危機の源となったことは少ない。2008年に顕在化した米国のサブプライムローン問題も、本質的には、証券化商品全体の信用問題がその源にあるとされる。ただ過去の金融危機の根幹には、家計における過度のレバレッジがあり、景気過熱とその後の急後退が政策当局のコントロール不能な状況をもたらしたことは明らかである。

家計債務発のバブル崩壊が起きたノルウェー

 ここで、ノルウェーが登場する。同国は1980年代後半から90年代初頭にかけて、家計債務の増大で金融危機に陥ったのだ。

 当時のノルウェーは、家計が過剰な債務を縮小するために、急激に消費や住宅投資に向けた支出削減を行ったことが危機の発端になったといわれている。消費者の不安が増大した中での支出削減は、ノルウェー企業の利益急減をもたらした。

 家計債務の縮小に遅れて、家計が消費や投資を控えることにより利益が減少した企業向け融資の信用収縮が発生した。既に80年代後半から徐々に収益性が悪化していた銀行では、融資企業の業績悪化に伴う大規模損失を契機に、収益性の悪化が加速度的に進み、最終的には91年の預金の取り付け騒ぎにまで至った。同時期の92年にスウェーデンで銀行危機が、規制緩和によりバランスシートの健全性を見失い、過剰な企業債務により発生したのと比較しても、その危機の発生メカニズムの違いは鮮明である。

図表2 ノルウェーの銀行貸出増減(1990年初頭の金融危機、前年同月比)
(出所)ノルウェー中銀より大和総研作成

 金融上のシステミックリスクと家計債務の関係性を見ると、家計債務の大部分は住宅を担保としており、その価値が大きく変動することがリスクの源となる。すなわち、住宅価格が長く上昇している際には一定期間リスクは低下するが、一旦逆方向を向けば、そのリスクが加速度的に上昇することは自明である。

 ただし、ノルウェーで起きた金融危機でも、住宅ローンでの直接的な損失は少なく、その多くが、突然の金利上昇により、消費に大きな影響が出ることで、経済へのネガティブな波及効果が生まれたことが原因といわれている。突然の消費者の行動変化が結果的に経済成長に大きなインパクトを与え、銀行に甚大な損失を生み出す。また欧州では、日本と違い長期の固定金利の住宅ローンが一般的ではなく、多くが変動金利を採用していることも、家計債務とシステミックリスクの相関を高めている。