経済協力の案件はシベリア鉄道の現代化プロジェクトだけでは終わらないようだ。他にも、ロシア極東で発電される電気を海底ケーブルで北海道あるいは本州までに送電する「エネルギーブリッジ構想」も検討されていると報じられている。

 対ロシアの投資に限らず競争が激しい大型インフラ輸出の受注を勝ち取るには、やはりトップセールス、つまり総理の力と相手国のリーダーとの信頼関係が極めて重要である。その意味で、対ロシアの新アプローチはまさに、日本のトップによるインフラ輸出の売り込みとも言える。

ロシアにとっても経済支援は干天の慈雨

 ロシア政府は領土問題解決に向けて軟化した前向きな姿勢を示し始めたが、その背景として、新アプローチの効果以外にもロシア側に事情があることは想像に難くない。実際、2014年3月のクリミア併合とウクライナ東部の紛争を巡り欧米との関係が著しく悪化した結果、対露制裁が課された。

 同年の夏には一時100ドルを超えた原油価格が下落し、2年経過した現在も1バレルあたり50ドル前後で推移している。制裁により国際金融市場から事実上シャットアウトされた上、輸出の7割をエネルギー関連が占めるため原油価格下落によるマイナスの影響を大きく受けたこともあり、意外感はなかったであろうがロシア経済は2014年下期には景気後退状態に追い込まれた。

 しかし、2015年の夏頃にはロシア経済も底打ちし、徐々ではあるが回復に向かい始めた。国内経済は制裁と低原油価格という「ニューノーマル(新常態)」に適応し始めた模様であり、規模は縮小したものの貿易黒字と経常黒字が維持されているほか、ルーブル相場も安定している。

 1年前には2桁台だったインフレ率が半減し、経済成長は来年からプラス転換する見通しである。ロシア政府には極東地域開発に注力する余裕も生まれつつあるが、日本の協力を取り付けることができれば、その開発が極東地域のみならずロシア国内の景気を大幅に押し上げるとの期待が寄せられている。

 日露両国、両政府には「事情」があるが、今回、両国には政治・外交面、及び互いの経済活性化に向けて効果が得られる環境が整っていると言えるだろう。領土問題解決と平和条約締結に向けての本格的な合意の準備が年内に完了する可能性があるとすれば、プーチン大統領の12月の訪日後、次の世代の歴史教科書には日露関係に新しいページを開いた「長門協定」が記載される可能性もある。

 12月の訪日が、歴史に残る動きとなることが期待されている。

※本稿は著者の個人的な意見であり、所属する組織の見解を表しているものではありません。