仮にEUの「拠点政策」が実行されれば、(ヘッジファンドを含めた)世界中のオルタナティブ投資運用機関の約6割の拠点が集中すると言われる米国への影響は甚大である。ヘッジファンドにとって、新たな清算機関の利用などは当然ながら無用の長物であり、「コスト・手間」ともになるべく避けたいと願っているのは当然であろう。

 リーマン・ショック以降、金融機関に対するデリバティブのリスク管理の一環として始まったこのOTCデリバティブの中央清算機関の義務付け政策ではあるが、当時から、新たな規制の適用対象となるヘッジファンド等からの苦言は多かった。

 かつて、筆者が懇意にしていたヘッジファンドと雑談交じりに話していた際、「(清算機関に通したら)自身の投資ポジションを明かさなければいけないなんて有りえない」「余計なコストが掛かる」など、開始当初からすこぶる評判が悪かったのを覚えている。無論、EU内に移動させられた清算機関が、今より安いコストで取引できる保証など無いことは、容易に想像できる。

 「拠点政策」で、清算機関がユーロ圏内への移動を余儀なくされた場合、その清算機関を利用していた金融機関も(コストや使い勝手、ECBが将来的にはバックトゥバック取引を認めないなどを理由に)、EU内へ移動する必要が出てくる可能性は低くない。

 穿った見方をすると、この「拠点政策」は、ブレグジットを契機に、EUパスポートが失効したとしても大きな影響がないとされていた(拠点移動が必要無いとされていた)ヘッジファンド等の投機筋が無理矢理移動させられることとなり、金融街シティにとっては大きな損失につながる可能性も出てきている。

 ロンドンの高級住宅地であるメイフェアー近辺に拠点を構え、ロンドンで家族も含めて安泰と思っていたヘッジファンドマネジャー達にとっても好ましくない結果となる。仮にそうなった場合は、金融街シティからどれだけの人数がユーロ圏内に移動するかは想像がつかない。当然、米国のヘッジファンドにも同じことがいえる。

 現段階では、ECBの勧告の影響がどの程度まで拡大するかは不明であるが、想定以上の移動が伴うとなると、ブレグジットで大きな影響がないとタカをくくっていた運用機関の関係者達もその状況から目が離せなくなってくる。果たして、その余波は米国のヘッジファンドまで波及するろうか。