ただ、この一連の「拠点政策」に対し、最初に公の場で異を唱えたのは、意外にも英国ではなく、米国だった。

最大の被害者は米国のヘッジファンド?

 米国商品先物取引委員会(CFTC)のジャンカルロ委員長は、今年5月のISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)の会合に出席した際、欧州委員会の「拠点政策」に対して痛烈に批判している。ジャンカルロ委員長は、この「拠点政策」が書かれた通達案に対して、このような行為がまかり通るのであれば、世界的規範に反するものであり、米国側も報復措置を取る可能性があると発言した。

 米国規制当局はユーロ建て清算機関のユーロ圏内への移転に対しては一貫して反対しており、移転政策に伴いユーロ建て取引の商品をより複雑でかつ余分なコストがかかるものにすると主張している。

 一連のECBおよび欧州委員会の「拠点政策」は、米国をターゲットとしたものではない。むしろロンドンから米国に清算機関が移るかもしれない(実は米国は、EUと立場が同じであり、ドル建ての金利スワップの清算は、90%以上がロンドンで行われている)。

 ではなぜ米国が、この「拠点政策」が推し進められると不都合であるかというと、そこには米国のヘッジファンド等の(オルタナティブ投資)運用機関にそのヒントが隠されている。

 米国では、米国顧客が取引する(自国通貨である)ドル建て金融商品の清算機関に対し、米国の監督機関に直接登録することを求めている。ここで当該清算機関の拠点が米国外であってもこの方針は変わらない。このためロンドンのLCHクリアネットなどは、既にCFTCに登録し、米国内の清算機関と同様に定期的な検査の対象となっている。

 裏を返せば、CFTCに登録し監督を受けさえすれば、清算機関の場所はどこの国でも可能としている。いうなれば米国のヘッジファンド等の顧客は、ロンドンの清算機関を利用した、(取引の実態が他国にあっても帳簿は自国にある)バックトゥバックの取引を既に行っていることとなる。

 このため、英国がEUを離脱しても現状に何ら影響を与えることはない。同様にEUは「拠点政策」などは止めて、米国と同じスタイルの監督方法を選択すれば、英国がEUを離脱しても現状の取引に何ら影響はない。そうすれば、米国に拠点を置くグローバルマクロ戦略等はユーロ建てだろうがドル建てだろうが、米国からロンドンの清算機関を利用して取引を今と変わらず継続することができる。