裏を返せば、EU加盟国内での直接的な監督が望ましいことを意味する。その背景には、英国がEU離脱後、2008年のグローバル金融危機を受けて、G20は「プレーンバニラ」等の店頭(OTC)デリバティブ商品については、中央清算機関(クリアリングハウス)による清算を義務づけた。

シティが引き続き覇権を握るかは清算機関次第

 この決定を受け、2016年までに、世界の店頭デリバティブ市場(544兆ドル)の6割以上がクリアリングハウスで清算されるようになった。なかでもロンドンに拠点を置くクリアリングハウスへの世界各国の金融機関からの支持は著しく、ロンドン証券取引所(LSE)の子会社であるLCHクリアネットは、全通貨における金利スワップの過半数を処理しているとされる。

 無論、英中央銀行のイングランド銀行(BOE)のカーニー総裁は清算機関のロンドンからの移転は清算活動の細分化につながるとし、反対を表明している。清算システムの移動は、莫大なコストが掛かり、欧州経済にとってもメリットは乏しく、現実的ではないというのがその理由のひとつだ。

 ただ、ECBのドラギ総裁は、ユーロ建て取引の多くが英国金融街のシティで行われている現状を快く思わない発言を繰り返しており、最終的にどのような政治的プレッシャーをかけてくるかは読み切れない。

 確かに、仮に日本円建てのデリバティブ取引の清算のほとんどが、実はシンガポールや香港で行われていましたということになると、日銀の黒田総裁といえども「通貨・円」に対する金融安定性に過大なリスクがあると判断する可能性は高いだろう。他国での清算集中を嫌い、監督・管理の問題や、円滑な金融政策の実施が出来ないことなどを理由に「拠点政策」という介入に入る可能性もゼロとはいえない。

 ECBの本拠地があるフランクフルトにとっても、清算機関の大規模移転は新たな金融街としての覇権を握る絶好の好機と映る。6月23日には、その追い打ちをかけるようにECB理事会が一連の「拠点政策」を支持する形で、欧州中央銀行制度に関する議定書(第22条)の改正が勧告された。この改正が実施されれば、ECBおよびユーロシステムが金融政策や決済システム、ユーロの安定に影響を与える可能性のある清算機関に対し、強制的にその活動に関連するリスク等を監視することが可能となる。

 すなわち、この改正案により、ECB(やユーロシステム)には清算機関に対する明確な法的能力が付与され、清算機関に対する監督権限の行使が可能となる。著しい量のユーロ建て取引が行われる第三国の清算機関、すなわち、ブレグジット後にユーロ建て取引の大部分を担うロンドンの清算機関に対しても厳格な監督が必要となり、強制的な管理が実施されることを示唆している。

 この発表以降、ECBのクーレ理事は、EU域外国で自国通貨ユーロに対する金融安定性に過大なリスクを及ぼす様な(一極集中の)清算機関を認めないとし、最終的にEU拠点内への(清算機関の)移動を推奨している。