ソフト・ブレグジットになれば、当初の想定よりEUへの移動規模を少なくできる可能性がある。金融機関関係者の多くは、政府の姿勢が変化したのかを注意深く見守っていた。

 そのような中、6月20日、ハモンド財務相が講演し、金融街シティにおけるブレグジット後の影響について、総選挙後初めて言及した。講演でハモンド財務相は、英国にある金融機関が、ブレグジット後も単一市場への良好なアクセス維持のための3原則を提案していると述べた。

英政府、金融機関の期待に応えず

 すなわち、(1)英国・EU間のクロスボーダー取引の規制要件を定める新プロセスを設定すること、(2)金融安定性を優先させ、英国・EU双方で協調的かつタイムリーなリスク管理を可能にすること、(3)これらの枠組みが、永続的かつ企業にとって信頼に足るものであることである。

 政府が金融機関にどのようなメッセージを送るかが注目された講演だったが、結果的にはシティの金融機関がEU加盟国への移動を思い留まるほど、具体性がある内容ではなかった。このため、シティの金融機関関係者の多くは、単一市場へのアクセス(パスポート制)の維持はすでに絶望的であり、シティでは、強硬離脱に備えて事業移転準備を整えている機関が多い。そもそもソフト・ブレグジットという定義自体が英国側の一方的主張にすぎず、EU側にその概念が存在しないという事実が認識されつつある。

 では、今後の金融機関の動きはどうなるだろうか。

 仮にソフト・ブレグジットの可能性が高まったとしても、実現はより複雑で実効性も懐疑され、シティからの業務移転計画を変更するまでに至らないと筆者は見ている。既に多くの金融機関が、英国がEUを正式に離脱する2019年3月に間に合うよう、2018年夏ごろまでには移転先での業務開始に向け準備を開始し、バンカーおよびバックオフィスのスタッフのロンドンからの移動を予定しているようだ。

 最終的なロンドンからの移動規模は、同様にロンドンからの移動が予定されている欧州銀行監督局の新拠点場所などに依存するだろう。40万人といわれるシティの金融機関関係者がどれくらい移動するかは今のところ、分からない。EU拠点は、加盟国における顧客へのセールスを担うことが主眼で、投資銀行業務の大半はロンドンに残留させる見通しを示している金融機関も多い。

 ただし、ユーロ建て取引の清算機関がEUに移転する場合は、大規模な移動が生じる可能性がある。

 ロンドンは、全世界におけるユーロ建てデリバティブ商品清算の4分の3を担っており、ブレグジット以降、EU域外国となる英国で清算の大半が行われることをECBは問題視している。ECBは以前から清算機関の運営に支障が生じた場合、ユーロ圏内の決済システムに多大な影響を与える可能性があるため、ユーロ建て取引を多く行う清算機関は、ユーロ圏内に拠点を置くべきとする「拠点政策」を主張している。

 欧州委員会は5月4日に発表した通達案で、EUにとって非常に重要な資本市場機能を提供する清算機関が、EU域外に存在する場合に、客観的な基準に基づく監督が必要と記している。