今回の法案の特徴の一つは、オバマ前大統領が行使したロシア制裁の大統領令6本(内訳は、ウクライナ関連が4本、サイバー攻撃が2本)を法制化することだが、同時に、法制化は制裁の緩和や解除に関する大統領権限を抑制することも意味する。

「予想不能」な大統領の権限を抑制

 法案が批准されれば、大統領には制裁を緩和、あるいは解除するに当たり、議会にその決断の根拠を示す義務が発生する。議会には関連案の提示を受けた後、それを検討する権利が与えられる。

 つまり、大統領の制裁に対する緩和・解除の裁量は狭まることになる。

 トランプ大統領はシリア紛争や北朝鮮問題の解決に向けロシアから協力を得る見返りとして、制裁緩和の可能性を示唆している。さらに、トランプ氏の行動が予想不可能であることを考え合わせると、制裁の緩和・解除に関する大統領権限に制約を課すことは、議会が「突発的な」制裁解除というリスクを回避できることになる。法案可決後は、トランプ大統領に限らず、大統領と議会の権利の綱引きにおいて、少なくとも対ロ政策に関し議会の立場が有利となるだろう。

 もちろん、法案成立には大統領の署名が必要だ。米国では大統領に拒否権があり、法案成立を拒否することは十分に考えられる。

 ただ、議会は3分の2が賛成すればこの拒否権を覆すこともできる。あまり知られていないが、過去にも大統領が拒否権を行使した後に、議会がそれを覆した事案が少なからず存在する。

 例えば、オバマ大統領(当時)は議会の12の法案に対し拒否権を行使したが、その一つが覆されている。ジョージ.W.ブッシュ大統領(同)も同じく12法案に対し拒否権を行使したが、そのうち4法案に対する拒否権を議会が覆した経緯がある。クリントン大統領(同)も37法案について拒否権を行使したが、うち二つが覆されている。

 果たして、トランプ政権がロシアゲート疑惑に揺れるなか、大統領の拒否権を行使するのか。仮に行使したとして、それを議会が覆すかどうかが、今後の焦点となる。

 法案の成立は、まだ予断を許さない状況にあるが、米国の新たな制裁は、既に世界に波紋を広げている。中でもピリピリしているのが、欧州だ。

 ドイツ外相とオーストリア首相は、6月15日に米国の新法案の修正を求める共同声明を発表した(以下「共同声明」)。共同声明で両国首脳は、今回の法案には問題があり、成立すれば欧州と米国の関係にとって弊害が大きいと強調している。

 欧州と米国はウクライナ問題を巡り、対ロシア制裁で共同歩調をとってきたはずだ。にもかかわらず、このような異例の声明発表になったのはなぜか。