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政府は「貯金」より投資促進に舵を切ったか?

 経済成長の両輪は消費と投資であるとの観点から、政府は道路や地方空港の建設といった大型インフラ案件の実現に意欲を示している。大型インフラ投資案件の実施に当たっては、資金調達の面において官民連携が期待されているものの、政府はソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の資金を以前よりも積極的に活用する可能性が出てきた。

 04年に設立されたロシアのSWFである「安定化基金」は08年2月1日、原油価格の下落による財政赤字の補填を目的とする安定化基金の機能を受け継いだ「準備基金」と、将来発生し得る国民年金の運用赤字を賄う財源としての「福祉基金」に分割された。しかし、18年2月1日に準備基金が正式に廃止され、ソブリン・ウェルス・ファンドの運営は「福祉基金」に一本化され、10年間続いた二重体制に終止符が打たれた。

 安定化基金とその一部を引き継いだ準備基金の運用は中銀の外貨準備と同様に極めて保守的であったのに対して、福祉基金はその一部を国内外のインフラ投資(例えば、17年にはハンガリーの地下鉄車両の近代化、ロシアのサラトフ市の新空港建設等)に充てることや、14年12月に実施された30億ドルのウクライナ国債への投資など政治的な意味合いの極めて強い投資に活用することも許されている。

 準備基金と福祉基金の二重体制時代に、大手企業がロビー活動を行い、より高い経済成長率を追求するため準備基金を福祉基金のように国内インフラ投資に活用すべきであると訴えていたことを考慮すれば、今回の福祉基金への一本化の動きは、3月18日の大統領選を意識し、現政権がロシアの経済界に配慮して譲歩して、「貯金」より投資促進に舵を切ったとも読むことができる。

 しかし、コモディティー価格の変動に景気が大きく左右されるロシア経済にとって「貯金」は必要であり、SWFの運用がリスクを伴うインフラ投資に偏れば、財政の安定が脅かされる懸念がある。

 こうした懸念が払拭されるかは別にしても、2つのSWFの一本化から1カ月も経たないうちに、政府はグローバル市場の揺れが激しい時にロシア経済の「盾」となる福祉基金の運用に関する規制を改正し、運用使途ルールを一層強化した。今回の規制改正により、18年1月1日以前に実施された投資案件およびロシア直接投資基金の管理下にある投資ファンドへの投資以外の投資については、福祉基金がロシア中銀に預けている資金の残高が対GDP比7%に達するまで禁止された。

 シルアノフ財務相は、福祉基金の資金は外貨準備と同様に運営される流動性の高い部分が対GDP比7%で維持されれば、市況や地政学的な外部環境の変化に左右されることなく財政支出を一定規模で3年間維持することが可能であるとしている。

構造改革を進められるかに注目

 国の財政状況が安定し、ロシア国債の格付が引き上げられているにもかかわらず、向こう数年間は飛躍的な経済成長が期待できないのは、高い成長への構造的なハードルが存在しているからである。そして、新政権誕生後は、構造改革が継続されるか否かが注目されるところである。

 ロシア政府は14年以降マクロ経済政策の構造改革を実施した。具体的には、インフレターゲット制の導入、ルーブルの完全変動相場への移行、予算への低原油価格適用政策(原油価格が40ドルを超えても、その超過分を歳出に充当することを禁じる)などである。18年3月現在、原油価格が65ドルであるにもかかわらず財務省はドル買いルーブル売りを継続しているため、短期的にロシア経済は自国資源の価格上昇による恩恵を全面的に受けることはできないが、中長期的には原油価格の変動に対するルーブル相場の感応度を低下させることが可能となった。実際、17年2月以降は原油価格が18%上昇したのに対し、対ドルのルーブル相場は3.5%上昇するに留まっている。

 しかし、マクロ経済政策の「構造改革」はある程度成功しても、起業関連の手続きや汚職問題関連の改革は依然として道半ばであり、課題は多い。例えば、トランスペアレンシー・インターナショナルが作成している腐敗認識指数のランキングでは、ロシアは180カ国中135位となっており、汚職問題が深刻であることを示唆している。

 国家腐敗防止委員会によれば、2017年にロシアで確認された賄賂の総額は67億ルーブル(約125億円相当)となり、1年間で3倍に増加したが、贈賄額の急増は、政府高官関連のいくつかの大型贈賄犯罪が押し上げたものであった。贈賄の半分は少額の贈賄(1万ルーブル未満、約2万円相当)であったと報じられている。金額が小さくても、贈賄罪への罰則は16年に採択された法律により重くなった。1万ルーブル未満の贈賄で最も重い刑罰は禁錮2年だ。かつて贈賄罪に問われた犯罪者の刑罰が禁錮4年まで延長される可能性がある。

 このように政府は汚職問題の改善にも注力しているが、投資環境改善にはより幅広い分野にわたる構造改革が必要であり、新政権が積極的に改革を続行するか否かが、今後経済成長の行方を占う鍵を握っている。