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三大格付会社2社がロシア国債を投資適格級に

 ロシア経済が回復したことや、経済体制が14年以前、つまり危機前と比べて強化されかつ安定したことが評価され、ロシア国債は投資適格級を回復している。今年2月に格付会社S&Pはロシア国債の格付を投機的な水準である「BB+」から投資適格級の「BBB-」に引き上げると同時に、アウトルックを安定的とした。

 一方、14年以降もロシア国債の格付を投資適格級に据置いていたフィッチは今回も「BBB-」とした。現在、ロシアは三大格付会社のうち2社から投資適格等級の格付を付与されていることになる。ムーディーズがロシアに付与する格付は「Ba1」であり、本稿執筆時点では依然として投機的水準から変更されていないが、見通しは「安定的」から「ポジティブ」に引き上げられている。

 見通し引き上げの背景にはロシア政府が、原油価格急落と対ロシア制裁という2つの衝撃を乗り越える見通しがついたことがある。さらに、原油価格上昇がロシア経済を拡大させていることも大きい。その一方で、格付会社は懸念要因として、長期的な経済成長を阻害する地政学的緊張や国際制裁を挙げている。ロシアの大手企業の格付はロシア国債の格付の引き上げに伴い引き上げられたものの、西側の制裁は企業の業績拡大の重しとなっているのである。

 今年2月にはイタリアの大手銀行グループ、インテーザ・サンパオロがロシアから欧州へのガスパイプライン建設「ノルドストリーム2」プロジェクト関連の融資の条件として、同プロジェクトが制裁対象外となることを挙げた。

 ロシア政府は、今年はコモディティー市場の足元の基調が持続し、地政学的リスクが上昇しなければロシア経済は安定したペースで成長を続けると見込んでおり、年末までに三大格付会社全てから投資適格格付が付与されることを期待している。さらに、オレシキン経済発展大臣は最近のテレビのインタビューにおいて、ロシア国債のソブリン格付を向こう6年間(18年3月以降の新大統領の任期期間)に最高水準(「A級」)に近づけることを目標に掲げ、「容易ではないが」とした上で、実現の可能性があることを示唆した。

 今年1月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで、ロシア代表団はロシア経済について語り、マクロ経済は安定しているので、今後はミクロ経済に関して改革が必要だと述べた。ロシア代表団の団長を務めたドボロコビッチ副首相は、ロシアは15年~16年の景気後退を脱却し、インフレを抑制し、農業の成長が加速するとともに労働市場も安定していると述べた。同時に同氏はOPECによる原油減産合意の必要性に賛成しているとする一方で、この合意の結果としての原油減産が経済成長を損ねる可能性があることにも言及した。

高金利が経済成長の重しに

 ロシア中銀はインフレ抑制という手柄を挙げたが、金融政策に対しては批判の声が上がっている。世界のアルミ最大手のルサール社を傘下に置くバゼル・グループのオレグ・デリパスカ社長(ソ連崩壊後に形成された新興財閥系の富豪の一人)は同中銀の金融政策を批判し続けている実業家の一人である。

 デリパスカ氏はダボス会議で、「ロシア中銀を褒める根拠はまったくない」と述べ、ロシアの輸出品の競争力の低さと経済成長の低さは、第一に高すぎるルーブル相場と国内製造業の発展を促進する政策が欠如していることに原因があると強調した。同氏は、経済成長を加速させるための重要な要素は、企業向け貸出の拡大と低金利であると訴え、現行の低インフレ・高金利という中銀の金融政策を批判した 。

 ロシア中銀がインフレ抑制に注力してきた結果、4%のインフレターゲットは17年半ばに達成され、その後もインフレ低下ペースが加速し、同年末にはインフレ率が2.5%まで低下した。こうした中で、同中銀は中期的なインフレ上昇リスクは依然存在していると強調しており、大幅利下げには消極的である。実際、インフレ率は引き続き低水準で推移している(18年2月時点で前年比2.2%)にもかかわらず、主要政策金利は7.5%であるため実質金利は5%を超える状況が続いている。

 こうした中、ロシア政府は大統領選挙を目前に控え最低賃金水準を前倒しで引き上げることを決定した。プーチン大統領は今年1月にトベリ車両製造工場を訪問した際、同工場従業員との会合において、19年1月に予定されていた最低賃金の引き上げは、経済状況が予想以上に改善したことに鑑み前倒しで実施し、今年5月1日からは最低賃金水準を最低生活費と同じ水準まで引き上げることが可能であると述べた。17年の最低賃金は9489ルーブル(約1.8万円)で最低生活費水準の85%であった。同年には400万人(うち公務員が160万人)の賃金は最低生活費の水準を下回っていた。

 公務員の最低賃金水準の引き上げに必要な資金は400億ルーブルであり、連邦予算からこの金額の約20%が振り向けられ、残りの80%は地方予算で賄われる予定である。

 プーチン大統領は3月1日に行った年次演説の中でも、国民の生活水準を向上させることが政府の最優先課題であると強調している。こうした政策が選挙の前に発表されたことは、現役の大統領の支持率を上げるためであろうが、この政策はまた、消費を押し上げ、経済成長にプラス効果をもたらすことも期待される。