さらに、各行が定めたバーゼル規制資本のバッファー(資本保全バッファー、カウンター・シクリカル・バッファー)においても、普通株式等Tier1比率の求められる最低所要水準を下回った場合、AT1債のクーポンや株式配当、変動役員報酬等に対して、支払いに制限が設定されていることも混乱に拍車をかけた。

 ただしバッファー自体、2016年から2019年までの段階的な実施でかつ多くの欧銀がバーゼルⅢ規制資本対応として資本増強を行っていたため、投資家はこの資本不足を懸念した訳ではないといえる。

 むしろ、真の懸念は、AT1債のクーポンは、欧州各国別(の会計基準で)設定されている分配可能額の範囲内から支払わねばならないことであり、利益が一定水準を下回ることでクーポンが停止されることを問題視したことだ。

 この一定水準の利益(分配可能額)は公表されておらず、かねてから透明性の欠如がAT1債の発行に関して指摘されていた。利益水準の多寡によりAT1債がいつクーポン停止になるかが不明であったため、減益、赤字決算を発表した欧銀に対する信用不安が加速することとなった。

不安の連鎖は解消しつつあるが…

 今回の一連の騒動を受けて、急遽、欧銀は、今期の分配可能額やAT1債のクーポン可能額等を発表し火消に躍起となった。ただし、欧銀も3月上旬には最終的な決算数値が発表されることで、分配可能としたクーポンが本当に支払われるか分かることとなる。予想外の引当金や追加損失などの状況に注意が必要となるであろう。また4月下旬に発表される第1四半期の収益状況においても、来年度以降支払い可能とされていたAT1債のクーポンの支払が可能か否かも注視する必要がある。

 AT1債は複雑な仕組みで投資家に損失を負わせる可能性もあり、適合性原則の観点から英国では個人向け販売が禁止されている。結果的に欧州のAT1債の主力の投資家は、ロンドンの金融街(シティ)のヘッジファンド等となっている。ただし、結果的に良くわからないから売却するという不安の連鎖は、サブプライムローン問題の二の舞ともいえる。

 当時は、サブプライムローンが全く含まれていない証券化商品の流動性スプレッドが大幅に拡大したことが問題となった。当時の教訓から、AT1債の問題が引き金となる無用な信用不安の連鎖には注意を払う必要があると同時に冷静さも求められるといえよう。

 欧州銀行の株式の売却が加速したのは2度と銀行が公的資金で救済されないのではという不安も一因といえる。公的インフラである銀行を救わないという判断は、金融安定化という意味ではマイナスの側面が強いという意見もシティでは未だ優勢である。

 無論、欧州のマイナス金利が銀行の資金利ざやを低下させ、銀行経営を苦しくさせたという見方に対する異論は少ない。金融危機以降、欧銀は収益性を強化させるために、投資銀行部門のリストラを強化していたが、高額年収のスタッフを多く抱えている点に変わりはなく、想定していた収益を上げられていなかったのが実情である。

 現在の欧州銀行は、ビジネスモデルの改革を図るというよりは、利上げの時期をひたすら待っていたというのが適切な表現であり、FED(米連邦準備委員会)の利上げにECB(欧州中央銀行)や日銀が追随しないことが明らかになると、収益性についての疑問が再度浮上しつつある状態だ。シティでは2015年には再度大規模なリストラが実施されていたが、欧銀は不採算部門から撤退した後に続く収益性の高いビジネスモデルを見つけられてはいない。どの銀行もウェルスマネジメントビジネスの拡大を狙っているが、米銀ほどの成功モデルを確立できていないのが実情であろう。

 今回の欧州銀行株急落の原因は、様々な要素が絡みあった結果といえる。マイナス金利による収益悪化、規制強化による銀行経営の行き詰まり、過去の不正に対する訴訟費用などが重なりAT1債への信用不安が引き起こされたといっても過言ではない。決してCoCosへの理解度不足や偏った報道だけが、その理由とはいえないことに留意する必要がある。

 今回の反応により、金融危機後に資本増強や規制強化を図り金融機関をより堅牢なものにしていたにもかかわらず、欧州銀行セクターは未だ脆弱であるとの懸念が改めて認識された。リーマン・ショック後に初めて銀行システムの健全性に対する不安が浮上し、金融危機の新たな局面に入ったとの見方までも議論されているのは興味深い事実であろう。

 ECBの次回会合(3月10日開催予定)でドラギ総裁は、マイナス金利幅の拡大を含む追加緩和を検討することを示唆している。さらなるマイナス金利幅拡大に伴い、欧銀が新しいビジネスモデルを見つけ危機の連鎖を断ち切れるかに市場は注目している。

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