さらに、スイスと同様にデンマークやスウェーデンも住宅ローン貸出が急増しており、マイナス金利継続が住宅価格の過熱化につながる恐れもある。特にスウェーデンでは深刻な住宅バブルに見舞われており、家計部門の債務残高は過去最大を記録している。

 このためスウェーデン中銀が家計部門の過剰債務問題に警告を発している。さらにデンマークでも同様に家計の過剰債務問題に直面しており、マイナス金利の住宅ローンも出現。住宅価格高騰に歯止めが掛からない状態が指摘されている。

マイナス金利が増幅させたAT1債の信用不安

 そんな中、2016年2月には、欧州金融機関の信用不安を巡る報道が世界を駆け巡った。その引き金となったのは、「偶発的転換社債(CoCos=ココス)」と呼ばれる債券に対する信用不安。原油価格の再下落や世界経済が景気後退に向かうかもしれないという心理不安とあいまって、世界の株式市場に動揺が広がった。AT1債とも呼ばれるCoCosとは何で、なぜ今回の世界的な動揺につながったのか。その背景にはマイナス金利の影響もあるのだが、順を追って説明していきたい。

 欧州では、国際的な金融機関の自己資本規制「バーゼルIII」実施を契機に2014年から2015年にかけて、CoCos(AT1債)と呼ばれる債券の発行が急増した。当時、英国やドイツ、スイスの大手行がバーゼルIIIのレバレッジ比率規制の強化に伴う基本的項目であるTier1資本の不足への対応を急いでいた。しかしながらバーゼルIIIのルールも分かり辛い上に、過去の劣後債や優先出資証券と同じ利回りでは、投資家への魅力は乏しいと言わざるを得ない。

 そこで、CoCosの利回りは通常の債券よりも相当高い部類に設定されている。当初は銀行の資本調達手法としてはその資本設計思想やリスク評価の難しさから、投資に慎重な姿勢も見られていたが、次第にCoCosは債券の利回り不足に悩む機関投資家からの投資が増えていった。ユーロ圏やその周辺国がマイナス金利や量的緩和を導入して以降はその傾向がさらに強まった。

 加えて、2016年1月からスタートしたEUの銀行再建・破綻処理指令(BRRD)や2015年11月に金融安定理事会(FSB)がその詳細を発表した総損失吸収能力(TLAC)により無担保シニア債も損失吸収債券となることへの不満も、CoCosへの投資を促した。これは損失リスクがある「無担保シニア債」が、AT1債と比較して利回り水準が低すぎるために、AT1債への投資が優先されたことが原因にある。

 結果的に、消去法のような形で増え続けたAT1債への投資だが、懐疑的な見方は従来からあった。AT1債は、普通株式等Tier1比率が5.125%を下回った場合に元本削減や株式転換させる仕組みを内包する必要がある。そのリスクプレミアムに加えて、商品特性を浸透させることを目的に、従来発行された同等の返済順位の資本性証券より高い利率が付いている。このため、本当にこの高利率を支払い続けられるのかという意見は多かった。

 また銀行が実際に(公的資金注入等で)破綻した場合の債務の返済順位についても、懸念材料が指摘されている。普通株式等Tier1比率のフロアー(銀行が最低保持する必要がある資本)である4.5%の前に5.125%の元本削減や株式転換のトリガーが引かれると、発行体が存続するために、本来は返済の優先順位の高いデットの投資家の利払いがエクイティ投資家より先に停止する形になる。

 バーゼルIII規制上の(その他Tier1である)AT1債の設計では、発行銀行が一定の利益を下回ると、まず初めにクーポンの任意停止を判断、その後、普通株Tier1比率が5.125%を下回った場合に元本削減もしくは強制株式転換される仕組みとなっている。

 発行銀行はクーポンの支払い停止判断に関して完全な裁量を保持している一方、支払停止が発行銀行の債務不履行を意味するわけではない。「AT1債のクーポン支払い停止は事実上の債務不履行」という誤解が広がり、今回の欧銀株式急落による市場混乱につながった。

 投資商品としてかなり複雑な上、これを理解している投資家でも、次のステップでは株式に転換され希薄化することへの不安心理が増幅し、欧銀の株式(特に決算が悪いドイツ、英国、スイスの銀行)は大きく売られることとなった。

図表2 規制資本比率とレバレッジ比率のAT1債の位置
(出所)バーゼル委員会、FSBより大和総研作成