日本の金融業界は証券業界におけるインターネット取引で大きな技術革新はあったものの、伝統的な銀行システムにおいて、他業種における米Airbnbや米Uberのようなかつてない技術革新の波を経験したことはない。マイナス金利の導入を決めた中央銀行が、頑ななまでに決済システムの安定性を求めるため、市中銀行にコストのかかる既存システムの継続利用を余儀なくさせることは愚の骨頂ともいえる。

 欧州各国では、金融仲介機関としての特権を享受してきた銀行に対し、規制による参入障壁を徐々に緩和するなど、マイナス金利が当局の重い腰を挙げさせたきっかけの一つとされる。

マイナス金利で現金不要論が勃発

 さらにマイナス金利の副作用として欧州で議論されているのが、現金不要論である。英イングランド銀行のハルディーン氏 は、2015年9月、米連銀の利上げが見送られた翌日の演説で、マイナス金利適用後の(銀行預金の利子搾取を回避するための)タンス預金に備え、現金廃止の可能性を示唆している。また、紙幣の廃止後の(ビットコインの様な)デジタル通貨の導入なども提唱しているのも興味深い。いずれにせよコスト削減という意味ではポジティブな考え方ともいえる。

 ただし、現状の“超低”貸出金利の状況を考慮すると、マイナス金利が日本でどの程度効果があるか疑問視されていることも確かだ。マイナス金利導入は、貸出マージンの縮小により銀行の収益確保をさらに困難にさせる事態を招く。ECB(欧州中央銀行)の定例理事会(2015年12月)の議事録にも、各行が低下した利鞘を取り戻すために、むしろ貸出の引き締めにつながる可能性があるなどのマイナス金利の懸念が指摘されている。

 さらに2015年12月のECBのマイナス金利幅の拡大(マイナス0.2%→マイナス0.3%)に続く日銀のマイナス金利の導入から、各国の中央銀行が通貨安競争に乗り出しつつあるといっても過言ではない。

 仮に中国が人民元の切り下げを実施したとなると、3月に追加緩和を示唆したECBがさらなるマイナス金利幅の拡大を図ることも予想され 、市場の悪循環を誘うことは想像に難くない。また欧銀の多くは、マイナス金利が適用される預金を移動させるにしても、コストが高過ぎて実現できずにいる。量的緩和を同時に実施しているため、預金を国債に置き換える代替策も限られ、結果的にマイナス金利のコストを自行内で吸収せざるを得ない状況となっている。

 たとえ貸出増加につながったとしても、マイナス金利分のコストを顧客から全て回収できる訳ではなく、むしろ資金利鞘が低下し収益力が落ちる場合も多々ある。また依然、マイナス金利と量的緩和の両立については意見が分かれており、否定的な見解を示す識者も少なくない。未だに欧銀はマイナス金利分のコストを顧客から回収しきれていないのが現状といったところだ。

 邦銀はATM使用料等で預金引出時に手数料を徴収するなど実務的には既にマイナス金利を導入しているとの指摘も多い。日本においても今回のマイナス金利を契機に、最も成長性がある分野の一つとしてフィンテックによるコスト削減がさらに加速することが期待される。マイナス金利導入のアナウンスと同時に、収益確保に苦戦する銀行セクターに期待できるか否かは、これからの邦銀のフィンテックの取り込み次第といえよう。

(本コラムの詳細はこちらをご覧下さい)。