釣っていたのは魚ではなく…

 そんなある日。

 周の文王(紀元前1152~紀元前1056年)が、狩の途中で彼を見かけます。ところが、よく見れば、釣り竿の糸の先には餌どころか針もついていない。いや、そもそも糸が水面に触れてすらいない。

 怪訝に思った文王が声をかけます。
 「ご老人、釣れますかな?」

さあ? じゃが、わしは魚を釣っているわけではないのでね、魚など釣れようが釣れまいが、どうでもいいんですよ。

 「ほぉ? では、何を釣っておられるので?」

あなたですよ。

 にやりとこちらを見る老人を見て衝撃を受けた文王は、ただちに平伏して彼を迎え入れます。

 「そなたこそ、太公(周の祖)が望まれた賢人に違いありませぬ!(「太公望」の由来) どうか私めをお導きくだされませ!」

 こうして彼の才能は彼の下で開花、軍師として周王朝の支えとなっていきます。このことを知った元妻は、呂尚の下を訪ね「ヨリを戻したい」と申し出ましたが、彼は手近にあった盆を地面にひっくり返して答えます。

この盆の水を元に戻すことができたら、復縁しよう。

 これが有名な「覆水盆に返らず」の故事となりましたが、奥さんもまさか「ニート」のぐぅたら旦那が歴史に名を刻むほどの「天才」軍師だったとは夢にも思わなかったことでしょう。

大切なのは自分を信じること

 大切なのは、天から与えられた自分の才を自ら信じることです。今現在、どんなに芽が出ていなくとも、周りから蔑まれても、自分に才があることを信じてそれを探しつづける、見つけたらそれを磨く。

 「どうせ俺なんか」と思っている者、自分を自分で見限っている者には、自分の才を見つけることなどできるはずもなく、ほんとうに「ダメ人間」として一生が終わってしまうことになります。

 太公望は毎日毎日、釣をしながらチャンスを待ちましたが、それも自分の才を信じていたからこそです。

 アインシュタインにしてもそうです。彼が「相対性理論」を発表したとき、本当にこの理論が正しいのかどうか、誰もその正しさを「証明」した者はいませんでした。

 ところが、まもなく「イギリスの天文学者アーサー・エディントン(1882~1944年)が皆既日食の観測結果から相対性理論の正しさを証明した」との情報が入ってきます。自分の理論が観測結果により初めて「正しい」と証明されたのですから、さぞやアインシュタインは喜んだのかと思いきや。特段喜ぶでもなく、彼はこう答えたといいます。

 「別に。仮に今回の観測結果が相対性理論に反する結論を出していたとしたら、それは観測が間違っていただけのことであって、私の理論の正しさは変わるわけではないからね」

人生に行き詰まっているなら、とにかく動く

 なんたる自信!

 じつは、世の「天才」といわれる人たちはみなどんな苦境にあっても、世間から蔑まれても自信に満ちあふれています。「何をやってもダメ」「誰でもできることが自分だけできない」という方は、むしろその分とてつもない才能が隠れていると信じ、自信を持って外に出、人と接し、興味がないことであっても何にでも挑戦し、行動し、経験してみる!

 そうすることで、自分の中に意外な才能が見つかり、その瞬間から新しい道が拓けてきます。

 太公望がそうであったように。

 人生に行き詰まっているなら、とにかく動く! 外に出る!
 棚の上の牡丹餅(ぼたもち)も壁を蹴らなければ落ちてこないのですから。