老いない人間も死なない人間もいないように、国家もまた「老い、死に至る(滅亡する)」宿命を避けることはできません。ただ、人間の寿命に比べて国家の寿命はだいたい200年、300年…と長いので、一般的にはなかなかこれが理解できないだけです。現在のイギリスは、人間に喩(たと)えれば「後期高齢者」といってよい。
今のイギリスの経済苦境も、老いさらばえた体(国)が今まさに多臓器不全を起こして“老衰”を迎えようとしているにすぎません。大きな歴史の枠組みの中で今回の動きを捉えたとき、「移民阻止」を掲げてEU脱退に生き残りをかけようとしているイギリスの姿は、「老衰によってまさに死を迎えようとしている老人に酸素吸入器を付け、心臓マッサージをし、必死に延命措置を施している医師」に似ています。
しかしながら、どんな名医がどんな施術を施そうとも、「寿命による死」を免れることはできないように、今回のイギリスがたとえ「移民阻止」を実行したところで、大した効果もないどころか、事態は悪化の一途をたどるであろうことを、筆者はここに“予言”しておきましょう。
繰り返しになりますが、歴史的観点からみればイギリス衰退の根本原因は「そこ(移民問題)」にあるのではなく、「老い」にあるからです。
21世紀は「欧米諸国衰亡の世紀」
イギリスだけでなく現在の欧米諸国はこぞって、中国でいうなら19世紀末ごろの清朝末期、日本でいうなら幕末のような衰亡期に入っています。このあたりの詳しい解説は、拙著『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』に譲るとして、19世紀の中国や日本でも、今のイギリス同様、さまざまな人々が躍起になって清朝/幕府を護ろう、維持しよう、蘇らせようと人生をかけて努力したものです。
清朝では曾国藩(そうこくはん、1811年~1872年)・李鴻章(りこうしょう、1823年~1901年)・左宗棠(さそうとう、1812年~1885年)・張之洞(ちょうしどう、1837年~1909年)らが自国を護ろうと尽力しました。もちろん日本でも、徳川幕府を護ろうとして命がけの戦いをした者たちがいました。