しかし歴史を紐解けば、今回のイギリスの意図もよく見えてきます。ひとつの国家が政治的・経済的苦境に陥りながら、政府がそれを打開する政策を持ちあわせないとき、政府中枢の政治家たちは国民の不満の矛先が自分たちに向くことを懼(おそ)れるようになります。

 「政策も持たぬのなら、政治家などさっさと辞めてしまえ」とツッコみたくなるところですが、「政治家」という職業、いつの時代でもどこの国でも一度就いたら辞められない“旨味”があり、政治家はこれを吸い続けたい。

政治的スケープゴートを仕立てあげる

 そこで一部の政治家は一計を案じます。「政治的スケープゴートを仕立てあげて国民を煽り、そのスケープゴートにすべての責任を押し付けて、自分たちの地位を守ろう!」 企業においても、経営が傾いてきたにもかかわらず、これに対処できず、なおかつ自分の地位を守りたい者が、部下に責任を押し付ける姿と似ています。

 そうした“スケープゴート”に選ばれるのは、たいてい「国内(社内)における異分子」であることが多い。たとえば、戦前においてアドルフ・ヒトラー(1889年~1945年)は「現在のドイツの苦境はすべて国内に住むユダヤ人のせいだ!」と主張し、国民の不満を彼らに向けさせました。

 それが、400万とも600万とも言われるユダヤ人虐殺を生むことになりましたが、現在のイギリスの政治家が「すべて移民のせいだ」と責任転嫁し、国民もこれを支持している構図自体は、ヒトラー・ドイツのユダヤ人迫害の構図と変わりません。

 18世紀、フランス革命が進行する過程においても、スケープゴートに責任を押し付けるという事件がありました。当時のフランス経済は一向に安定せず、国民の不満が内乱となって頻発。そのうえ不敗将軍ブラウンシュヴァイク公(1735年~1806年)率いるプロイセン軍が迫るという、まさに内憂外患の中、これらの国家問題になんら対処できない革命政府は、突如として「すべての元凶は国内にいる裏切者のせいだ!」と主張して殺戮事件(九月虐殺、1792年)を起こしています。

 他にも例を挙げればキリがありませんが、だいたい政府がこのようなスケープゴートをでっちあげて政策無能を隠そうとするとき、すでにその国は“終わりの始まり”にあるときがほとんどです。

イギリス衰退の真因は「老人の病」

 しかし今、イギリスが衰亡の一途をたどっているのは「移民問題」とか、そんな些末な理由ではなく、もっと大略的歴史的観点から見れば、「老人の病」のようなものといえます。

 たとえば──。若いころは屈強だった肉体が見る影もなく老い、病みがちになったとき、医者はその原因として「酒」「煙草」「過食」「睡眠不足」「ストレス」などなど、いろいろな生活習慣的原因を指摘するかもしれません。しかし、実際のところ、そんな不摂生など若いころならビクともしなかったのに、ちょっと無理をしただけでたちまち体調を崩すことを考えあわせれば、その根本的な原因は「老い」だということができます。

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