“移民”の歴史、因果は巡る

 「身勝手」と言えば──。一般的に「イギリス人」といえば、民族系統はゲルマン系(アングロサクソン人)というイメージですが、実際には、スコットランド・ウェールズ・コンウォール・アイルランドに住む人たちの多くはケルト系民族です。そもそも、これらの各地域を含むグレートブリテン島に住んでいた人たちの多くはケルト系民族でした。今もこれらの地域には、ゲール語、スコッツ語など英語以外の言語が残っています。

 そこに5世紀ごろ、現在のデンマークのあたりに住んでいたアングロサクソン族が海賊行為を行いながら侵掠(しんりゃく)してきて、原住民であったケルト系の人たちを西に北に駆逐しながら居座りました。その末裔こそが、現在イギリスに住むアングロサクソン人です。現在のイングランド地方に住んでいる人々は、その昔イギリスに「移民」してきたと言うことができます。

 因果は巡る。自分たちが昔したことを、今、自分たちがされる側に立った途端、必死になってこれを排斥しようとしている姿は、人間の身勝手さが露骨に顕れていて失笑させられます。

事態打開できない政治家の取る常套手段

 しかも今回の脱退騒ぎは、一部の政治家やそれに煽動された国民が、現在イギリスが立たされている経済苦境の原因を「すべて移民のせいだ!」と、移民をスケープゴート(生贄、身代わり)とした結果です。

 しかしながら、じつのところイギリス経済が悪化の一途をたどっているのはそんな短絡的・些末なものではない、と筆者は考えています。確かに近視眼的にみればそういう側面もなきにしもあらず、ですので、歴史に疎い国民が「移民のせいだ!」と煽る政治家に騙されてしまっても致し方ない側面もあります。

東欧などからの移民に職を奪われ、移民への社会保障給付で税負担まで重くなる。そんなイギリス国民の不満がEU離脱を選んだ直接の理由だと言える。残留派だったキャメロン首相(当時)が与党内の離脱派を取り込もうと国民投票を持ち出したものの、結果的には移民排斥を訴える政治勢力に利用されてしまった。キャメロン首相の見通しが、甘かった。(画像:PIXTA)
東欧などからの移民に職を奪われ、移民への社会保障給付で税負担まで重くなる。そんなイギリス国民の不満がEU離脱を選んだ直接の理由だと言える。残留派だったキャメロン首相(当時)が与党内の離脱派を取り込もうと国民投票を持ち出したものの、結果的には移民排斥を訴える政治勢力に利用されてしまった。キャメロン首相の見通しが、甘かった。(画像:PIXTA)

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