振り返って現代のアメリカ合衆国

 ところで、こうした歴史的背景を俯瞰した上で、現在のトランプ政権を観察することによって、それまで見えていなかったものが見えてくるようになります。こうした「ディクタトール」「欽差官」「大老」らの揮(ふる)った権限に相当するものが、今まさにトランプ大統領が濫発している「大統領令」と言うこともできます。

 アメリカ合衆国憲法は三権分立の精神が貫かれ、通常、大統領は連邦議会が決めた「法」に基づいて行政を行い、これを無視することはできませんが、非常時には議会の承認を得ることなく、直接連邦政府や軍に命令を下すことができます。これが「大統領令」です。

 トランプ大統領は大統領選において「頭の悪い中学生」が言い出しそうな公約を次々と打ち出したので、「あんな公約が議会を通るわけない!」と囁かれたものでしたが、トランプ大統領はそれを見越して、就任早々「大統領令」という“伝家の宝刀”を濫発しています。

 これは、ローマ共和国の末期、ワイマール共和国の末期、清朝の末期、江戸幕府の末期の状況を彷彿とさせるものです。20世紀に覇を唱えたアメリカでしたが、21世紀はその“終わりの始まり”でしょうか。

「大統領令」の数は、米国の動揺のバロメーター

 とはいえ、このように大統領令を濫発した大統領は彼が初めてというわけでもありません。じつは過去、1000を超える大統領令を濫発した大統領は4人いますが、その4人が4人とも「20世紀前半」に集中しています。20世紀前半といえば、日露戦争で幕が上がり、第一次世界大戦、世界大恐慌、第二次世界大戦と世界的に緊迫と動乱と戦争に明け暮れた時代。大統領令の多さは、アメリカ合衆国の動揺のバロメーターとも言えるでしょう。

 この大統領令の多さからも、この時代が如何に「危機の時代」であったかを読み取ることができますが、その後(20世紀後半)は大統領令の数は落ち着いてきます。ところが、ここにきてふたたび大統領令の濫発が息を吹き返し、トランプ大統領は「5人目」となるつもりでしょうか。そうなれば、それは新しい「危機の時代」を象徴していると言ってよいかもしれません。

21世紀はアメリカ衰亡の世紀となるのか

 アメリカはこの新しい「危機の時代」を乗り越え、ふたたび素朴な民主主義の国へと戻ることができるのか、それとも“柔軟性”を失って独裁が常態化し、ローマや清朝のように亡んでいく道を辿るのか。そのどちらの道を歩むかの“分水嶺”は、トランプ大統領の「政治手腕」「度量」にかかっていると言えましょう。

 しかし、ドナルド・トランプ氏に、それほどの政治手腕が、ありやなしや──。となると、拙著『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』(祥伝社)の中で「21世紀はアメリカ衰亡の世紀となる」と書きましたが、それがいよいよ現実味を帯びることになります。今は、トランプ大統領のお手並み拝見、といったところです。