「民主と独裁」は“善と悪”あるいは“水と油”の敵対関係にあるのではなく“表と裏”の関係、すなわち「2つで1つ」なのです。民主主義発祥の地であるヨーロッパ社会ではこのことがよく理解されていたため、「民主」制の制度の中に「独裁」的な機能が組み込まれていることが少なくありませんでした。

民主制の中の独裁者

 例えば。人類史上唯一地中海全域を「我らが海(マーレノストロ)」として繁栄を謳歌した古代ローマにしてもそうです。

 古代ローマでは、首相に当たる官職に「執政官(コンスル)」、上院に当たるものに「元老院(セナトゥス)」、下院に当たるものに「民会(コミティア)」があり、すでに現在の民主制に近いシステムが機能していましたが、現代日本の民主制の中には存在しない官職がありました。それが国家の非常事態に任命される官職「独裁官(ディクタトール)」です。

 国家が存亡の機に立たされたとき、「民主制」などたちまち機能しなくなることをよく理解していたローマ人は、臨時官職「ディクタトール」に元老院の意向をも民会をも無視して自在に国を運営する非常大権(独裁権)を与えます。「民主と独裁」のメリット・デメリットをよく理解し、これを巧妙に使い分けた柔軟性こそが、ローマを「ローマ」たらしめたのです。

イタリア・ローマにある古代ローマ時代の遺跡「フォロ・ロマーノ」。首都ローマに開設された最初の都市広場であった。(写真:PIXTA)

“世界で最も民主的”な憲法の中にも「独裁的権限」

 それほど古い時代にまで遡らずとも、20世紀においても民主的な制度の中に「独裁」的機能が存在していました。第一次世界大戦後のドイツ革命によってドイツ帝政は崩壊、ドイツは共和国に生まれ変わり、当時“世界で最も民主的”と謳われた「ワイマール憲法」が制定されました。しかし、その第48条には「非常時において、大統領は緊急命令を強行し、民主主義・基本的人権をも停止することができる」とありました。大統領には「非常大権(緊急権)」という独裁的権限が与えられていたのです。