部下とあなたがそろってお客様のところに行くとどうなるか。一言、あなただけに怒りの矛先が向けられます。理不尽ではありますが、こういう場合は往々にしてクレームを発生させた本人よりもその上長が叱られるものです。

 「教育がなってない」「どう埋め合わせてくれるつもりだ」。あなたはただ頭を下げ、謝罪の言葉を述べるだけです。「まことに申し訳ございません」自分の代わりになって叱られているあなたの姿を見て、部下はきっとなにかを悟るでしょう。

 あなたはいつも部下のことを気にかけ、目を配っている。であれば、それはきちんとした形にして見せる。そうでないと部下は永遠にあなたの心には気づかないままです。部下に「忖度」とか「惻隠の情」を期待してはいけません。そういうことができないから、彼は一般社員の座に甘んじているのです。

「抜き打ち同行」では部門に不公平感が漂うだけ

 話を戻すと、謝罪に行くのであれ商談に行くのであれ、部下のお客様訪問に同行するのは、恩を部下に感じさせる上で非常に有用な手段で、あなたはぜひとも積極的になさることをおすすめします。

 その場合、気をつけておくべきことがひとつあります。気まぐれで同行してはだめです。あなたは「ちょっと手が空いたときに」とか「ついでの用事がある場合に」とかで同行することを考えてはいませんか。これではいけません。まずもって「抜き打ち同行」になってしまうことがまずい。それでは部下には大きな心理的負担になります。あなたが良かれと思っていても、当人は「仕事のあら探しをされるのでは」と疑心暗鬼になってしまう。

 さらにいけないのは「××さんはひいきされている」「××さんだけ目をかけてもらっている」と、部門内に不公平感が漂うことです。同行した部下には疎ましがられ、他の部下からはねたまれでは、文字通りの踏んだり蹴ったりです。それでは尊敬など到底おぼつきません。これを避ける方法はたったひとつです。事前にきちんと同行予定を組み、それを部下全員に公開することです。

 これはグループウエアなどで行っても構いませんが、一番いいのはアナログ的に、すなわち模造紙などに書いて壁に貼っておくことです。こうすることで「満遍なく部下のお客様訪問に同行し、しかるべき指導をしている」あなたの心が「形」になります。すると、部門内の不公平感が消えるのはもちろんですが、なにより素晴らしいのは部下が頑張るようになることです。

 それはそうでしょう。「×日に上司がお客様訪問に同行する」ことが事前に分かれば、彼はあなたの前でいいところを見せようとして根回しをしたり、お客様サービスに力を入れたりするからです。あなたはそれを認めたら、もちろん「褒める」という具体的な形を部下に示し、もって恩を具体的に売らなくてはいけません。

 また褒めるだけではなく、あなたの更に上の立場にある人、つまり役員や社長に「私の部下の××くんは、こんなに頑張って成果を挙げました」と報告する。そして報告したらその旨を必ず本人にも伝えてください。「社長にきみの頑張りを報告しておいたよ」と。理由はもうお分かりですよね。部下にとっては、自分の努力や成果が社長の耳に達するのは「とてもうれしいこと」ですが、あなたがそれと知らせずにいては決して本人には伝わらないのです。

(取材・構成=諏訪弘)