妻子をこよなく愛するAさんはそんなことはありませんでしたが、「変な断りかたをして雰囲気を悪くしたくはない」と考える程度には常識人でしたので、乞われるまま連絡先を教えました。営業電話がかかってくることは予想していましたが、「まあ適当にあしらえばいいや」くらいに思っていたそうです。

20数回目の電話でほだされる

 ところが彼女の営業攻勢は、Aさんの想像を遥かに上回るものでした。なにしろ三日に一度の割合で電話やメールが来る。「明後日、お店でイベントがあるの。Aさんと一緒に盛り上がりたいな」「来週、あたしの誕生日なの。お店で祝ってほしいな」「Aさんがおすすめしてくれた本、読んだの。とても面白かった。お店でこの話の続きをしない?」。20と何度めかの電話があったとき、さすがのAさんも「ついほだされて」(本人談)、「じゃあ、×日にまた行くよ」と約束してしまったそうです。

 話を聞いて私は「このキャスト、大したものだなあ」と感心しました。彼女は「訪問回数の法則」をしっかりと実践していたからです。

 訪問回数の法則とはなにか。ごくシンプルに言えば「売り上げは訪問回数に比例する」法則です。すなわち、商品・サービスをお買い上げいただくならば、何度も何度も訪問して「いかがでしょうか」と言いつづけなくてはならないということです。

 もちろん、商品やサービス「そのもの」の魅力は必要です。しかし厳しい言い方をすれば、それは「あって当たり前」のもの。だからそこで差別化をはかるのは難しい。人材のスキルの底上げによって差別化するのは有効な差別化の手段ですが、しかし人材は一朝一夕に育つものではない。となるとやはり、訪問回数で差別化するのがもっとも確実で手っ取り早い。

 長年にわたり訪問営業を続けているとわかるのですが、販売は確率です。とすれば「当てる」ためにはどうすればいいのか? そう、回数を増やすしかありません。売り上げを伸ばすには、とにかく訪問の絶対数を確保するのが鉄則中の鉄則です(わが社では「6回までは訪問したうちに入らない」ルールにしています)。くだんのキャストはそれを厭わず実行した。彼女は「訪問」を「メール・電話でのアプローチ」に変えた。だからAさん再訪の「売り上げ」を得たのです。

訪問回数を「熱心さ」と見るお客様は多い

 もしかしたらあなたはこんなふうに思うかもしれません。「キャバクラの営業電話はともかくとしても、何度も何度も訪問してはかえってお客様の不興を買うことになりはしまいか」。そうですね、お客様だって人間ですから、中にはそういうかたもいらっしゃいます。

 「それみたことか。だったら訪問回数を増やすなんてナンセンスだ」。それはちょっと違います。よく考えてごらんなさい、お客様のもとには毎日たくさんのセールス担当者が飛び込み訪問しています。あなたはone of themでしかないから、あまり気にすることはありません。「度々訪問されることを苦にしないお客様だけを相手にする」と発想を切り替えてください。

 ただ、何度も訪問するにあたってはある種の工夫も必要です。事例を紹介しましょう。

 B社は都内でオフィス什器や文具、消耗品などの販売代理業を営んでいます。数年前ですが、同社のテリトリーに某大企業(以下C社)の東京本社が移転して来ました。ここと取引ができるようになれば、年間の売り上げを数千万円はアップさせることができる。そう考えたB社の社長は、C社に積極的な売り込み攻勢をかけることにしました。

 と、ここではたと困る事態に直面しました。先述の通りB社は販売代理業で、商品そのもので差別化を打ち出しにくい。ライバルのD社やE社も同じものを同じ値段で売っている。さあ、B社はどうしたか。もうおわかりですね、「訪問回数を増やした」のです。