私は、こういうことは社員にしっかり教えなくてはいけないと考えていて、早朝の勉強会を始めとする様々な学びの場で「これこれの額をプールしてある。いざとなったらそこから当座の生活費などを支給する」と、何度も繰り返し伝えています。

 会社は常に社員を大切にするべきですし、もちろん私もわが社がそういう組織であるようにと日々努力・改善をしているつもりですが、取り組んでいることは(その旨を)きちんと明言しておかなくては決して伝わらない。社員に「忖度」を期待してはいけません。

 もっとも「社長の心、社員知らず」で、残念ながら彼らはこういうことにはあまり興味がないようです。私が若い社員をつかまえて「きみ、わが社が天災等に備えてプールしてある金額を覚えているかね?」と質問しても、

 「えーと、100万円くらいでしたっけ?」
 「馬鹿だな、そんな額では一人あたり3000円にもならないじゃないか」

 などと、まるで出来の悪いコントのようなやりとりになることがしばしばあります。まあ、これはもうしかたがないですよね。そもそも私だって、「現金を用意しておかねば社員が路頭に迷う」という心配が杞憂に終わるのならば、それに越したことはまったくないわけですし。

地震から24時間で通常業務が復活した会社

 不測の事態への対応、ということに話を戻せば、「なにを、どうするか」を事前に取り決めてルール化し、そして社員に周知徹底しておくのがいいと思います。わが社の場合、「その場にいる一番職責の高い者の判断・指示で解決に当たること」と決めています。

 たとえばそこに課長しかいなくて、なおかつ部長に連絡を取ることができなければ、課長は部長の決裁を仰がないまま即断即決していい、と定めているということです。不測の事態を処すためは、スピード対応と指示系統の一本化が求められるからです。

 その結果としてなにか損害が発生しても、本人の責任は一切問いません。責任を問おうものなら思い切った采配が振れなくなりますからね。またその場で対応に当たるスタッフには、「とにかく“悪い情報”を最優先で報告すること」と定めています。怠った場合は始末書を提出させ、賞与査定を下げる。その意とするところは以前の当連載で述べたことと同じで、会社というのはとにかく悪い情報こそいち早く挙げてもらわなくては困るからです。

 …と、ここで本稿を終えようと思っていたところで電話がありました。それは東大阪市に本社を置く株式会社関通の達城利卓本部長からで、同社に人的被害のないことを伝えるものでした(私はかねてよりセミナー等を通じて、達城本部長とは親しくさせていただいていたのです)。ひとしきりお見舞いを述べたあと、話を聞いて驚きました。同社はすでに通常業務に戻っているというのです。

 関通は物流・倉庫業を営んでいます。すなわち社会的インフラへの依存度が比較的高い企業です。それがあれほど甚大な地震の発生から24時間やそこらで復旧したとなれば、なかなかすごいことです。達城本部長の話を少しだけご紹介して本稿締めくくらせていただくことにしましょう。

 前述の通り「社会的インフラへの依存度が比較的高い」ことを自覚すればこそ関通は、不測の事態の発生時にどう対応するかのルールを細かく定めていました。地震が業務時間内に発生したらどうする。時間外だったらこうする。

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