多くの顧客が望むのであれば、我が社(武蔵野)は果物店にだってなります。(写真:PIXTA)
私はいつも、こんなふうに思っているのです。「ああ、わが社のお客様の3割が、いや、2割でもいい、『武蔵野では林檎は販売してくれないの?』とおっしゃってはくださらないものだろうか」「そうすれば私は即座に、青森や長野の林檎農家との契約に走るのになあ」。私は本気です。だからといって、小山が乱心したとはどうか思わないでください。私は正気です。
だって、考えてもごらんなさい。2割ものお客様が「林檎を売れ」とおっしゃるのですよ。ということは、「仰せのとおり、林檎をお持ちいたしました、青森県産『王林』、最高品質のものでございます」とかなんとかいって恭しく差し出せば、その2割のお客様は必ずお買い上げくださる。こんなに素晴らしいことはありません。なにしろわが社は、ひとつ194円の台所用スポンジを売るのですら筆舌に尽くしがたい苦労をしているのですからね。
私が社長を務めている株式会社武蔵野は、ダスキンの代理店業務と、経営サポート事業のふたつを主力とする中小企業ですが、将来的に高級フルーツの訪問販売店になることを私はなんら厭うものではありません。お客様が喜んでくださる製品なりサービスなりを売るのがビジネスの基本です。これはだれしも異存のないところです。わが社の場合、それがたまたま、ダストコントロール製品であったり、経営サポートのサービスであるというだけのことです。
会議は仕事ではない
さて、本稿をお読みの管理職のあなた。ここまでの話で私がなにをいいたいかおわかりになるでしょうか。それは一言、「なにをすべきかはお客様自身に訊け」です。
あなたの統べる部門で、ある商品なりサービスなりが「ぼちぼち」という感じで売れているとします。あなたはこれをてこ入れして、もう少し売れ行きをよくしたい。さあ、なにをするべきでしょうか…、というと、多くの管理職が会議を持ちます。衆知を集めてよりよい「次の一手」を、とかなんとか。お気持ちはわかりますが、私からすればかなり滑稽なことです。だって、そこ(会議室)にはお客様がいないではありませんか。
ということは? そうです。会議で素晴らしいアイデアが出て全会一致で実行することになっても、それをお客様が受け入れてくださるかどうか(つまり、売れるかどうか)はわからないです。あなたがこれまでの経験から得られた知見を駆使して最善手を打ち出したとしても、お客様がそれを拒む場合は普通にある。なぜならばお客様が(「経営環境」が)変化するスピードは、往々にして企業の変革スピードよりも早いからです。
私とて会議が不要とまでは申しませんが、この点を認識せぬまま甲論乙駁(こうろんおつばく)で延々と話し合うのは会議ではありません。あえていうならそれは「怪議」です。考えたり議論したりは、本質的な意味での仕事ではない。それは一円にもならないからです。きちんと売り上げを出し、利益を挙げること「だけ」が仕事です。
「お客様に訊く」は強力な差異化要素になり得る
ちょっと話が脇道に逸れてしまいました。「お客様に訊く」に戻します。
商品なりサービスなりが売れるのはもちろん喜ばしいことです。ところが問題は、多くの管理職は(ともすれば経営者も)売れた、ああ良かった、で終わりにしてしまい、「その先」に行こうとはしないでいることです。これではいけない。そのお客様はなぜお買い上げくださったのかを探り、それを横展開し、いっそうの売り上げ増をはかる、それが管理職の仕事です。
本稿をここまでお読みになって容易に察しもつくと思いますが、「なぜお買い上げくださったのか」は、会議でいくら議論しても確かなところはわかりません。お客様に直接そう訊くのが一番確実で手っとり早い。そうである以上、あなたはお客様のところに行って(あるいは部下を向かわせて)それを訊くべきです。「なぜお買い上げくださったのですか」と。
「そんなやりかたがあるのか?」。私にはあなたの業界がどんなところかはわかりませんが、あなたがそう感じるということは、ライバルはお客様に直接訊くなんて真似はしていない証拠でしょう。是非やってみてください、それはライバルとの強力な差異化です。
「お客様は答えてくれるもなの?」。もちろんすべてのお客様が愛想よく答えてくださるとは限りません。しかし一般に人は、営業担当者の弁を一方的に聞かされるよりは自ら話すほうをずっと好みます。つまり、お客様と相応のコミュニケーションさえ取れていれば、答えてくださいます。「なぜお買い上げくださったのか」くらいのことは、回答が負担になるような質問ではないからなおさらです。
武蔵野の歴史はお客様に「訊き続けた」歴史
お客様に質問するといって、いったいどれくらいの数の回答が必要になるものでしょうか。いうまでもないことですが、数は多ければ多いほどいい。理想は「全数」です。さすがにそれは難しい? 「難しいことをやるからこそ、それは武器にもなる」のですが、まあお気持ちはわかります。それでは「その商品・サービスが一番売れている地域の全数」とか、あるいは「3年以上の取引があるお客様の全数」といった切り分けをして調査をしてみてください。
すると、きっとこれまで気づかなかったことが見えてきます。それはそのまま、次にあなたがなにをするべきかの指針になります。
私が武蔵野の社長に就任して30年近く。この時間はそのまま、お客様に「なぜお買い上げくださったのか」を訊き続けた時間でもあります。あるとき「隣の奥さんに勧められて」という口コミでの購入が多いことがわかりました。私は即座に口コミが拡がるような方策を打ちました。「ご紹介キャンペーン」などと称して、わが社が扱う製品を紹介してくださったお客様に割引などのサービスをするようにしました。
お客様も常に変化するので、また改めて質問する。すると今度は営業担当者のAくんの“感じがいい”ために成約に至っているケースが多いことがわかった。即座に人材教育に一層の力を入れて、だれもがAくんのような接客ができるようにした。すべての答はお客様がご存知ですし、自社がやるべきこともお客様が(間接的に)教えてくださる。
わが社はこの20年あまり、ずっと右肩上がりに増収・増益を続けてきています。それは、わが社がなすべきことをずっとお客様に尋ねてきたことの成果に他ならないのです。
(構成:諏訪 弘)
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小山社長の持論です。株式会社武蔵野を率いて約30年。赤字会社を再建した後、中小企業630社以上を経営指導し、5社に1社が最高益達成。その経験に裏打ちされた信念です。
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