
そのためにはどうしたらいいか。クレームが発生したら、あなたが率先してお客様のもとに出向き、叱られてくるのです。自分の身代わりになったあなたの姿を見て、きっと部下はなにごとかを学ぶでしょう。あるいは手際よく解決するするさまを見せてやる。部下の目にはあなたはヒーローのように映ることでしょう。クレームは人心掌握のチャンスです。
クレームをつけたお客様を感動させる対応を
B社の話に戻せば、第一報に対する返事が遅れたこと・担当者が内々で済ませようとしたことの2点を除けば、あとはもう「いうことなし」の対応ですね。
まず役員が電話をかけてきて、そしてその日のうちにAさん宅を訪問した、そのスピードが素晴らしい。謝罪だけならすぐにでもできましょうが、電話からわずか数時間のうちに経緯をしっかり把握し、今後の対策まで取りまとめて説明したのですから、これは並大抵の技量ではありません。
また書面ではあれ、社長も謝罪したというのもいい。謝罪は、役職が上であればあるほど通じやすくなります。これは感覚的にご理解いただけると思いますが、平社員が謝罪するよりは課長が、課長がよりは部長が、部長よりは社長が謝罪したほうが相手の心証はよくなる。
ともあれ、これでAさんは「ああ、全社的な問題として対応しようとしてくれているんだ」と実感したはずです。そうAさんに実感させた時点で、このたびの件はほとんど解決したようなものです。先に述べたこととも重なりますが、クレームを入れるお客様は、金銭的な慰謝以上に、傷ついた心こそを癒やしてほしいと願っているのです。
ウェブサイトのトップページにお詫びを掲載したのもすごいですね。これはなかなかできることではありません。B社は、冒頭で書いたようにハイブランドショップです。そういうところはスタイリッシュさや体面を重んじますから、すでに解決したクレームのことなどわざわざ明らかにしたりはしないものです。それは、ひとつにはAさんに対する誠意を(訪問・お詫び以上に)示したということでしょうし、あるいはまた社内での情報共有、そして綱紀の引き締めを狙ったということもあるでしょう。B社は、まさにクレームを糧にして一歩前進したのです。
最後に、言葉を変えて念押しをしておきましょう。
ケチな内心は必ず見透かされる
クレーム対応に関して多くの人が間違うのは、つい「なるべく恥をかかないように」「なるべく支出を少なくするように」などと考えてしまうことです。しかしそういう考えは、言葉に、行動に必ず表れ、そして必ず気取られます。
B社のウェブ担当者が、謝罪のつもりでむしろAさんを激怒させたようにです。クレームを解決する・責任を取るとは、恥をかき身銭を切りと、痛い思いをすることと同義です。お客様に「そこまでしてくれるのか」と思わせるくらいでなくてはクレーム対応としては不充分です。このことをよく覚えておいてください。
(構成:諏訪弘)
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