仕事ができると「思う」ことと、実際に仕事が「できる」こととは違う

 武蔵野は社員の心理状態を把握することにとても熱心な会社です。だから各種アンケートは頻繁に取るし、いわゆる分析ツールの類もしばしば実施しています。こうした調査の結果から「これこれの施策は社員の評判は悪いようだ」と思えば即座に改善しますし、「どうもAさんとBさんとは相性がよくないようだ」と判断すればどちらかを配置替えにしたりもする。

 そうする理由は簡単です。社員が現状に満足していなければ、お客様満足のための努力もできるはずがないからです。お客様満足のための努力ができなければ会社は傾いていくしかない。すなわち従業員満足はお客様満足に直結します。これは意外に見過ごされがちな点だと思うのではっきりと書いておきます。経営者や管理職は、部下がどういう気持ちで働いているかを常に気にかけておくべきです。

 さて、ここからが本題。新卒社員にも当然、アンケートの類はしています。内定期間中に「あなたは仕事ができるほうだと思いますか?」と質問すると、まず90パーセントくらいが「できる」「できると思う」「できるように努力したい」と、前向きな答えを返してくる。ところが入社一カ月もして(つまりまさにいま現在、というわけですが)同じことを質問すると、もう全員が「自分がこんなに仕事ができない人間だとは思わなかった」と、ネガティブな回答になる。これは毎年そうです。

 入社前、頭で漠とイメージしていた「仕事」と現実のそれとが違うのは当然のことですから、いざ社会人となって自信を喪失するのもまた当然です。もとよりわが社は新人に対しては、(新人ですから当然なのですが)そんなに難しい仕事をさせているわけではありません。それでも仕事ができると「思う」ことと、実際に仕事が「できる」こととは、天と地ほどの違いがあるのです。

 「(わが社の新人には)そんなに難しい仕事をさせているわけではありません」についてもう少し詳しくお話をいたしますと、武蔵野では配属がどこになろうが最初は必ずダスキン事業を経験するルールになっています。このダスキン事業は、ご契約くださっているお客様のところへ定期的にお伺いしてモップなりマットなりを交換し、代金を頂戴してくるだけの、じっさい単純極まりないビジネスモデルです。

新人は、まるで仕事ができない人材だと心得よ

 にもかかわらず「こんなに仕事ができないとは思わなかった」と回答するようになるということは……、そうです。あなたの下についた新卒社員だったら、もっと強く同じことを思っているはずなのです。なんとなれば武蔵野は天下に隠れもなき名門落ちこぼれ企業、一方あなたは(あるいはあなたの会社は)、わが社よりもっと複雑で困難な仕事をしているに違いないのですから。

 あなたはこのことをよくよく理解し、彼ら新人が自信をなくさないよう常に心を砕いてやる必要があります。

 このあたりの機微がわからない管理職は、「どうしてこんなこともできないんだ」などと感情的な罵倒をしてしてしまう。すると昨今の「ストレス耐性」の少ない社会人一年生はどうなるか。まあ季節的なことでいえば五月病にもなるでしょうし、病をこじらせれば職場にいづらくなって辞めもするでしょう。あなたは「使えない厄介者がいなくなってせいせいした」と思うかもしれませんが、実はこれは大きな「痛手」です。というのは、これは過去の当連載でも書いたことですが、これからの管理職は「いかに部下の退職を少なくできるか」が腕の見せどころになるからです。

 単純に、考えてもごらんなさい。この空前の人材難の時代、会社は大変な手間とコストとを投じて新卒を採っているのですよ。あたら獲得した人材をむざむざと「折る」ような真似をする管理職が、経営幹部から評価されるはずがないではありませんか。つまり「どうしてこんなこともできないんだ」と考える管理職と、「(新人は)こんなこともできなくて当たり前だ」と考える管理職とでは、今後大きな差が開くということです。