わが社は社員を誉めることについては熱心な会社で、だから「だれが」「どんな失敗をし」「どれだけの業績を上げたか」を丁寧に記録し、定期的に表彰しています。そういうことを四半世紀以上も続けて分かるのは、特に新卒社員の場合、会社に一番多くの迷惑をかけた人材こそが新人賞なり優秀社員賞なりを獲得しているという厳然たる事実です。社長の私が出向いて謝罪しなければ収まらないような大クレームを引き起こした新卒社員が、しれっとその年の新人賞を獲得するというのはよくあることで、まこと失敗体験こそ成長の糧なのです。

 社長が、はたまた管理職が若い社員の失敗を許さなければどうなるか。答えはひとつ、彼らはなにもしなくなります。なぜならば、なにもしなければ失敗することもないから。もっと簡単に言えば「仕事をしなくなる」ということです。それが組織にとってどれほど危ういかは多言を要しますまい。新人に任せる仕事は、額も責任もそれなりです。であればどんどん失敗させればいいのです。些細な失敗を咎め立てして成長機会の芽を摘むことのほうが、組織にとってはよほど損です。

社会とは「記憶力」ではなく「経験」で勝負する世界

 さて、私のこの連載は若いビジネスパーソンにもよく読まれているという話を聞きましたので、最後に新卒社員のかた向けにメッセージをお送りしておきましょう。

 あなたは、日経BP社の膨大なコンテンツ群の中からわざわざ私の連載をお読みくださっているくらいですから、きっと優秀なかたなのだろうと思います。高校・大学と特に大きな挫折もなく、充実した学業と課外活動に勤しんでこられたことでしょう。

 あなたにはなぜそれができたのでしょうか? 理由は簡単です。あなたにはそれまで、勉強や遊びの「蓄積」があったからです。だから学年が進んでも応用を利かせることができた。あなたはその延長線上で、「仕事もきっと大過なくやれるはず」と思っているかもしれません。一言、「甘い」です。私は断言しますが、あなたはこれから嫌というほど失敗します。

 なぜならば社会とは、経験がものをいう世界であり、そしてあなたにはその経験がほぼゼロだからです。あなたはこれまで(ということはつまり学校で)記憶力と、(記憶したことの)検索力で勝負できていた。しかし社会に出たからには、あなたが恃(たの)むべき武器はもはや記憶力でも検索力でもありません。ただひとつ、経験です。

 あなたが失敗すれば、上司からは相応にお小言のひとつも喰らうでしょう。それはこれまで順調にエリート街道を歩んできたあなたには屈辱に感じられることもあるかもしれません。しかし上司には上司なりの立場なり思惑なりがあってあなたを叱っているのです。ここはあなたが大人になって叱責を受け容れてください。

 失敗したことを恥じるのは大いに結構。失敗を繰り返すまいと決意するのはなお結構。しかしどうか失敗を恐れる人間にだけはならないでください。繰り返しますが、失敗こそが成長の糧です。そうである以上、あなたが失敗することはまぎれもなく組織に対する貢献です。

(構成:諏訪 弘)

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