Iくんという「万年課長」の話

 わが社にIくんという古参の社員がいます。彼は非常に高い能力のある人材で、入社してわずか2年で課長職に昇進しました。これは当時のわが社としては異例のスピード出世といってよく、私は彼の成長をとても楽しみにしていました。将来必ずや私の右腕となって八面六臂の活躍をしてくれるに違いない、と。

 ところが私の思惑は外れました。課長になってからのIくんはどうにも冴えないのです。仕事ぶりは概ねそつがないから降格させるほどではないのですが、かといって部長に抜擢するにはいささか成長が足りない。やむなく私は、その後およそ20年にもわたり彼をずっと課長に据え続けました。この間、彼を追い越していった後輩は実に30名以上にも及びます。

 ふつうの人は、後輩が自分より出世すると「なにくそ」と発奮するものですが(あるいは面白くなくなってやる気をなくしたり、それで辞めてしまったりするものですが)、Iくんに限ってはそういうこともない。達観しているというのかなんというのか、ある意味では見上げた根性です。実はいまも彼は課長のままで、だから「万年課長」というあまり名誉とはいえない座をゆるぎないものにしています。おまけに基本給は課長ナンバーワンです。

 しかしこういうことは、そう珍しくはありません。入社10年、とりあえず課長には昇進できた。しかし「その先」がない──すなわち次長・部長といったポストがなかなか見えてこない。そういうジレンマを感じている管理職の方々は決して少なくないのです。

「経験」しようとしない管理職に、それ以上の職責は任せられない

 いったいそれはなぜでしょうか。仕事は問題なくやっている。まず満足すべき成果も挙げている。能力が足りないということも、少なくともこの連載をお読みの皆さんであればあり得ないでしょう。にもかかわらずそれ以上の出世の芽がなかなか出てこないとすれば、考えられる理由はただひとつ。先のIくんの例ほどには極端ではないでしょうが、「成長が足りない」と目されているからです。

 会社組織の中では一般に、課長職くらいまでであれば(言葉は悪いのですが)ほぼだれでもなれます。課長はまだ権限は少なく、求められる仕事の質もそれほど高くない。だから一般社員のときの感覚の延長線でも、なんとか務まる。ところが「その先」を望むとなると、もう一般社員と同じではいけません。部長職以上ともなればその責任は一般社員の比ではないくらいに重くなり、よりシビアに人となりが見極められます。