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 この話に乗ったオーナー経営者は5人。本間ゴルフの全株式の20%ずつを購入することになったのだが、本気だったのは「私だけだった」と劉氏は言う。

 「大会社のオーナーたちは多忙で『劉さん、あとはよろしく』ということになってしまいました」

 2010年2月、彼らが共同出資する持ち株会社のマーライオン・ホールディングスがアント・キャピタル・パートナーズから本間ゴルフの過半数の株式を譲り受け、劉氏が会長に就任。そして2年後の2012年6月、劉氏は本間ゴルフの発行済み株式の100%を手に入れ、名実ともに本間ゴルフのオーナー経営者となった。

 それ以後、業績は右肩上がりとなり、2016年には遂に香港市場に上場も果たした。上場後、公表されているAnnual Reportからも業績の飛躍的な伸長は明らかだ。

  • Revenue(総収益) 2014年157億円→2018年256億円
  • Operating profit(営業利益) 2014年18億円→2018年62億円

 いったい劉建国とはどんな人物なのか。共通の知人である、日本に帰化している中国人ビジネスマンの仲介で劉氏に会うことになった。

 劉氏は背丈が180センチはあろうかという堂々たる体躯ながら、人懐こそうな笑顔で現れた。フランクで率直に受け答えをしてくれる人である。私は買収直後、本間ゴルフの社員たちとどう向き合ったのか、尋ねてみた。

 「会長に就任直後、酒田工場に行き、生産にかかわる人たちとまず話しました。私が新しいオーナーだというような態度ではなく、あくまでも皆さんと共にやっていくパートナーとして振る舞おうと考えていました。その際、私は真っ先に本間を買収した理由を告げました。『私は本間ゴルフのモノづくりの姿勢に惚れ込んでいるから買った』と言ったのです」

 山形県の北西部にある酒田工場には300人ほどの従業員がおり、その大半が地元出身者で、寡黙な人たちだ。以前からファンド出身者が社長を務めてきたから「よそ者」経営者には慣れていたが、今度ばかりは勝手が違った。それまでは「よそ者」であっても日本語は話せた。しかし突然目の前に現れた中国人オーナーはまったく日本語が話せなかった。通訳を通じて外国人とコミュニケーションしなければならない。それは、酒田工場の工員たちにとって未体験のことだった。

 しかも「生産拠点の中国移転は時間の問題だ」という噂が流れていた時だ。中国人は拝金主義で、圧倒的な品質だけにこだわってきた不器用な職人集団とはまったく違う人種だと思い込んでいただけに、本間ゴルフのモノづくりの姿勢に強い共感を抱いているという、スピーチ冒頭で劉氏が語った買収理由の表明は職人たちの心にもさぞや響いたことだろう。巧みなやり方ではあるが、それは単なるパフォーマンスではなく、その言葉に偽りはなかった。

 劉氏と話していると、彼が根っからのゴルフ好きであり、本間ゴルフという買収対象のバリューを熟知していたばかりか、日本の文化そのものに強い想いを抱いていることが伝わってくる。買収の成否では買収相手の事業内容を正確に理解していることが絶対条件であり、その点、劉氏の本間ゴルフに対する理解は当初から相当に深いものがあった。

 「本間はゴルフ界のエルメスだ」

 冒頭でも紹介した通り、劉氏は筆者にそう言ったが、どこがどうエルメスなのか尋ねた。