「ようするにユニゾン・キャピタルが『あきんどスシロー』株購入時に借りた巨額の借金がそっくりそのまま『スシローGHD』に付け替えられているということです」

 確かに、「あきんどスシロー」時代に比べると財務状況は極端に悪化している。2015年には総資産に占める無形固定資産の割合が67.6%となり、純資産318億円を大きく超える状況だ。

 しかしそれは、損益計算書にはなんの影響も与えていない。その秘密は会計基準にあると山本氏は言う。

 「日本基準なら『のれん』のような無形固定資産は毎期、償却され、その分だけ利益が減ります。しかしスシローGHDのようにIFRS、すなわち国際会計基準を採用すると『のれん』は均等償却されませんから、損益計算書(PL)には影響を与えないのです」

国際会計基準の「のれんの会計処理」がカギに

 日本基準と国際会計基準では、「のれん」など無形固定資産の会計処理がまったくちがう。

 「国際会計基準では(のれんの)均等償却はしませんが、無形固定資産に対して毎期減損テストを義務付けています。のれんの価値が認められなくなった途端、一気に損失計上されます。万が一そうなれば巨額の損失を計上することになります」

 国際会計基準をめぐっては様々な意見が交錯している。冒頭で触れた武田薬品やソフトバンク、総合商社など、活発に海外でM&Aをしている企業にとっては、世界共通の会計基準にした方が連結財務諸表の作成など財務情報の作成が効率的になるし、他社との業績比較もしやすくなることから、国際会計基準を採用している企業が多い。もっとも2018年6月時点で国際会計基準を採用済みの企業は161社、採用を決めている企業を含めても193社にすぎず、上場企業全体の1割にもならない。

 国際会計基準に詳しいベテラン会計士によれば、それを採用するかどうかは「経営哲学の違い」だと言う。

 「国際会計基準が(のれんの)償却を否定するのは『プレミアムの価値が徐々に減少していくと考えていない』からであり、逆に日本基準のように毎期償却したいと考えるのは『価値の実態が実物ほどは見えないから安定的に償却したい』と思うからでしょう。それは哲学の違いとしか言いようがない。確かに、国際会計基準を適用すれば、日本基準のように毎期均等償却しなくて良くなる一方、ある時突然減損を計上することにもなりかねず、経営管理上、不安定要素になります。そうならないようにモニタリングすべきですが、現実はそう簡単ではありません」

 では、毎期の減益回避を目的として日本基準から国際会計基準に変更するようなことは、あり得るのだろうか。会計士はこう指摘した。

ようやく実業の会社と経営統合したが

 「国際会計基準導入の目的がそんなことだとしたら、利益を出すためにやっていることになり、きわめて不健全と言わざるを得ません」

 スシローGHDは16年9月に国際会計基準を適用し、翌年3月に再上場を果たしている。スシローは台湾や韓国への新規出店を進めているが、スシローGHDが国際会計基準を適用した理由は果たして、海外進出戦略だったのだろうか。山本氏が不安視するような、「減損テストで突然巨額の損失を計上」するようなリスクはないのだろうか。

 気になるのはコメ卸大手の神明の存在だ。昨年9月、スシローGHDは米卸大手の神明傘下の元気寿司との経営統合を発表した。元気寿司はすでに170店舗を超える海外展開をしており、統合によってスシローGHDの海外戦略は全く異なる次元を迎えることになる。

 神明はすでにスシローGHDの約3割の株を取得しているとも報道されている。神明は、ファンドではなく実業の会社である。株式市場の期待の高さは株価を見れば一目瞭然だ。昨年3月に再上場してからスシローGHDの株価は3500円前後で推移していたが、9月に神明が登場するや株価は急騰。今年6月には7000円まで駆け上がっている。

 日本企業による国際会計基準導入のメリット・デメリットが浮き彫りとなったスシローGHDのケース。同社の真価が問われるのはこれからだ。