「技術は急速に進化し、自動車業界における競争は激化しています。私たちの競争相手はもはや自動車会社だけではなく、GoogleやApple、あるいはFacebookのような会社もライバルになってくると、ある夜考えていました、なぜなら私たちも元々はクルマを作る会社ではなかったのですから。データは新しい通貨だと言われており、ソフトウェアは極めて重要です。しかし、さらに、ソフトウェアからプラットフォームに移行しているのではないかと思います。自動運転やカーシェアリングなど私たちが実現したい数多くのモビリティサービスの屋台骨となるのはプラットフォームです」
アマゾンやウーバーも参画、「プラットフォーム」化狙う
このモビリティサービスのプラットフォーム事業実現のためにトヨタとアライアンスを組んだ企業の顔ぶれがすごい。
ネット通販大手Amazon(アマゾン)、中国のライドシェア大手のDidi Chuxing(滴滴出行=ディディチューシン)、飲食チェーンのピザハット、そして米国のライドシェア(相乗り)サービス大手のUber(ウーバー)などだ。サービスの企画段階から参画し、実験車両による実証事業をともに進めていく予定だという。川上から川下まで、サプライチェーンをすべてコントロールする旧来のビジネスモデルを脱し、製品やサービスの提供者と利用者をつなぐ「場」を提供するプラットフォーム型企業への変身である。本丸であるオーナーカー市場とは切り離して、“サービスカー”市場におけるイノベーションを先行しようという戦略だ。
私が注目したのは「e-Palette」の自動運転ソフトは提供相手を選ばず、どこからでも、何社からでも提供を受けるとしている点だ。一切のこだわりを捨て、完全なオープン・イノベーションにするというのはトヨタにとって画期的だろう。この文脈を素直に読めば、Googleからも自動運転ソフトの提供を受けることもあり得るということになる。
振り切った決断、その2つの要因
それにしてもなぜトヨタはここまで振り切った決断ができたのだろうか。
私はふたつの要因をあげたい。
ひとつは創業家の存在だ。豊田章男社長は創業家の3代目である。会社の行く末に対する思いの深さが違う。サラリーマン社長には50年、100年先の会社の責任など持ちようがないし、そんなインセンティブがあろうはずもない。創業家だからこそ抱ける危機感が、日本の大企業らしからぬゲームチェンジに踏み込ませたにちがいない。
もうひとつはToyota Research Institute(TRI)の存在だ。TRIはトヨタが2016年、米国に設立した人工知能技術の研究・開発企業である。
いまや猫も杓子もシリコンバレー詣で、大企業の多くが何らか形でシリコンバレーに拠点を置いて、投資や技術の情報収集をしているが、日本企業の評判はすこぶる悪い。どっぷりシリコンバレーのネットワークに身を沈めることもできず、人的にも資金力の面でも貧弱で、日本企業は「周回遅れ」の汚名にまみれているというのが現状だ。そのなかにあってTRIは異彩を放っている。CEOのギル・プラット氏以下、超一流の研究陣を揃え、MIT(マサチューセッツ工科大学)やスタンフォード大学とも提携研究し、シリコンバレーでも一目置かれる存在だ。

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