「オーナーカーとサービスカー、どっちもフルスロットルで両方同時に開発できている会社は世界中に一社もないと思う。米国のITジャイアントは、オーナーカーは眼中になく、サービスカーしか興味がない」

トヨタ自動車  常務理事 先進安全先行開発部部長 鯉渕健氏。(撮影:堀勝志古)
トヨタ自動車 常務理事 先進安全先行開発部部長 鯉渕健氏。(撮影:堀勝志古)

 トヨタ自動車で自動運転とAIを担当する鯉渕健常務理事は、狙う市場によって商品化に対する考えがまったく異なるという。

 「サービスカーは地域限定で完全自動運転のビジネスを始めてもいいし、地域を限定すればそれだけ精密な地図も作れる。しかもタクシーやライドシェアなどサービスカーはドライバーの人件費が最大のコストです。それが不要になるならその分システム投資ができる。24時間、365日稼働なら投資の回収率も高い。300万円、500万円する高額な自動運転システムを導入してもペイする」

 センサーのゴージャス度、コンピューターの性能など、サービスカーとオーナーカーとでは、求められる自動運転システムのコンセプトがまったく違う。Googleの目指す自動運転は地域限定、コスト無視、ドライバーレスの完全自動運転技術の早期確立だ。

 「Winner Take All」の世界で勝ち抜いてきたGoogleは、クルマの自動運転でも商売として成立するサービスカー市場でいち早く勝者になることだけを考えているのだ。もちろんサービスカーでハイレベルな自動運転を実現できれば、そこからコストダウンしていくことも出来るという腹積もりもあるだろう。

完全自動運転? 実際にはエリア限定の条件つき

 だがそれはIT企業の発想で、実際に年間1000万台ものクルマを生産しているトヨタはサービスカー市場だけを見て先行開発していくことも出来ない。

 自動車メーカーのボリュームゾーンであるオーナーカーに今求められているテクノロジーのレベルは、Googleが目指す「自動運転」とはまったくレベルが違う。

 「高速道路で自動でハンドル操作ができる程度でも今のクルマのオーナーたちは十分、驚き、満足してくれるというのが現状だ。自動車メーカーの開発の主眼もそこにあった。なかにはBMWのように、オーナーカーに『完全自動』を搭載するとアナウンスしているメーカーもあるが、詳細を見ると『ジオフェンスエリア(限定したエリア)』内でという条件つきです」

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